先日、創業40年の印刷会社を経営する社長から、こんな質問を受けました。「そろそろ息子に代替わりしようと思うんだけど、退職金で5000万円もらったら税金でごっそり持っていかれるよね?」

実は、まったく逆です。役員退職金には、給与や不動産売却とは根本的に異なる税の計算式が適用されます。5000万円受け取っても、税金が250万円以下に収まるケースがある。これは制度上の事実です。

その仕組みを、順を追って数字で説明していきます。

同じ5000万円でも、受け取り方で2000万円以上変わる

給与として5000万円を受け取る場合、最高税率55%(所得税45%+住民税10%)が適用され、手元に残るのは2000万円台です。年収が高い経営者ほど、この壁は厚くなります。

一方、同じ金額を「役員退職金」として受け取ると、まったく別の計算式が動き出します。どのくらい違うのか。数字で追ってみましょう。

第一段階:退職所得控除で2500万円超を非課税にする

退職金にまず適用されるのが「退職所得控除」です。勤続年数に応じて、一定額が丸ごと非課税になります。

計算式は、勤続20年以下の部分が1年あたり40万円、20年を超えた部分が1年あたり70万円です。

例として、創業から45年在任した社長で計算してみます。

  • 最初の20年分:20年 × 40万円 = 800万円
  • 残り25年分:25年 × 70万円 = 1,750万円
  • 合計控除額:2,550万円

5,000万円のうち、まず2,550万円が丸ごと非課税です。給与では1円も控除されないこの仕組みが、退職金節税の第一の柱です。

第二段階:残額をさらに1/2に圧縮する

控除後の残額は、5,000万円 − 2,550万円 = 2,450万円。ここで、もうひとつの優遇が登場します。

この残額を、さらに半分に圧縮してから課税するのです。

課税対象額 = 2,450万円 ÷ 2 = 1,225万円

給与なら5,000万円に課税されるところが、退職金だと1,225万円にまで縮小されます。「控除で削る」「さらに半分にする」という2段階の設計が、退職金を特別なものにしている理由です。

実質税率、約5%という衝撃の数字

1,225万円に対する所得税・住民税は、概算でおよそ250万円前後です。

5,000万円受け取って、税金250万円。実質税率に換算すると、わずか**約5%**です。

給与として同額を受け取った場合の税負担と比べると、差は1,500万円以上になることも珍しくありません。何十年も積み上げてきた会社からの「最後の報酬」だからこそ、この仕組みを知っているかどうかで、老後の手元資金はまったく別物になります。

落とし穴:「過大退職金」と認定されないために

効果が大きい分、税務上の注意点もあります。

在任年数が短いと効果は薄れます。 退職所得控除は勤続年数に比例するため、早期の役員交代では恩恵が小さくなります。長く在任することが、退職金節税の前提条件でもあります。

金額が「不相当に高額」と判定されると損金算入できません。 法人側では退職金を損金に算入できますが、功績倍率方式などの計算ルールを無視した金額は税務調査で否認されます。役員退職慰労金規程の整備が必須です。

同一年に複数の退職金を受け取る場合は合算されます。 関連会社や子会社からも退職金を受ける場合は、計算が複雑になるため事前の設計が必要です。

経営者が「元気なうち」に準備しておくこと

退職金の節税効果を最大化するには、早めの設計が何より大切です。規程の整備、積立方法の選定(小規模企業共済との組み合わせなど)、後継者への引き継ぎスケジュールと連動した退職タイミングの設計まで、トータルで考える必要があります。

まだ役員退職慰労金規程を整備していない会社は、今期中に顧問税理士に相談しておくことをおすすめします。退職金は「もらうとき」に考えるのでは遅い。経営者が動ける今が、最大の節税チャンスです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。