先日、創業28年の製造業の社長から、こんな打ち明け話をされました。「役員退職金の規程、実はまだ作っていないんですよね」

その一言に思わず聞き返しました。28年も経営してきたなら、退職金の設計次第で数千万円の差が生まれているかもしれない——そう伝えたら、社長の顔色が変わりました。

役員退職金は、日本の税制でも屈指の節税スキームです。「退職所得控除」と「1/2課税」という2つの優遇が重なることで、同じ金額を役員報酬として受け取るより、手元に残るお金がまったく違ってきます。勤続年数別に節税効果をランキング形式で見てみましょう。

そもそも「退職所得」の何がすごいのか

役員退職金を受け取るとき、税金の計算には特別なルールが適用されます。

まず「退職所得控除」として、勤続年数に応じた金額を退職金から差し引くことができます。次に、控除後の残額をさらに1/2にしたものが課税所得になります。

この「控除+半額」のダブル効果が絶大です。同じ金額でも、役員報酬なら全額が課税所得になるのに対し、退職金なら課税対象がぐっと圧縮されます。具体的な数字で見てみましょう。

第3位:勤続10年・退職金3,000万円|節税効果 約650万円

勤続10年の場合、退職所得控除は40万円×10年で400万円です。

3,000万円から400万円を引いた2,600万円を、さらに1/2にすると課税所得は1,300万円になります。同じ3,000万円を役員報酬で受け取った場合と比べると、課税対象が1,700万円も少ない計算です。

税率が高い所得帯ではこの差が一気に節税額に転化されます。結果として役員報酬との比較で約650万円の節税。10年でこれだけの効果が出るなら、早期に退職金規程を整備しておく意味は大きいです。

第2位:勤続20年・退職金6,000万円|節税効果 約1,700万円

勤続20年になると控除額は40万円×20年で800万円に拡大します。

6,000万円から800万円を引いた5,200万円の1/2、つまり2,600万円が課税所得です。役員報酬として6,000万円受け取った場合と比較すると、課税対象が3,400万円も圧縮されます。

税率の高い所得帯でこれほど圧縮されれば、節税効果が約1,700万円規模になるのも頷けます。ただし、退職金の積立や規程の整備は退職直前に始めても遅いケースがほとんどです。20年のスパンで計画的に設計しておくことが、この節税効果を最大化する前提条件です。

第1位:勤続30年・退職金1億円|節税効果 約3,200万円

いよいよ1位の登場です。

勤続30年の退職所得控除は「800万円+70万円×(30年−20年)=1,500万円」になります。1億円から1,500万円を引いた8,500万円の1/2が課税所得で、4,250万円です。

1億円をそのまま役員報酬で受け取った場合との差は5,750万円分の課税対象圧縮。この差が約3,200万円超の節税につながります。一度の退職でこれほどの効果が出る制度は、日本の税制では他に類を見ません。

長期にわたって経営してきたオーナー社長にとって、退職金設計は老後の資産形成における最重要テーマの一つと言っても過言ではないでしょう。

設計には「適正額」の要件がある

ただし、役員退職金は「高額に設定すれば節税になる」という単純な話ではありません。

税務上で損金として認められるには、功績倍率を用いた適正額の枠内に収める必要があります。一般的には「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率(2〜3程度)」が目安ですが、これを超えた分は損金算入を否認されるリスクがあります。

また、代表取締役から平取締役への「分掌変更」に伴う退職金の取り扱いも、税務調査でよく問題になる論点です。設計段階から税理士と綿密に相談しておくことが不可欠です。

規程の整備、積立方法の選択(内部留保か保険活用か)、支給タイミング——これらはすべて事前の設計が勝負です。退職を意識してから動くのでは遅すぎることもあります。

まだ退職金規程を整備していない社長は、今期中に顧問税理士へ相談することをおすすめします。数千万円規模の節税機会は、動き出したその日から積み上がっていきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。