先日、60代のオーナー社長からこんな相談を受けました。「そろそろ引退を考えているんだけど、退職金で8,000万円受け取ったとき、税金はどのくらいになるの?」

その社長、退職金を「ただの大きな収入」だと思っていたようです。でも実は、退職金には給与には絶対にない、とても有利な税制上の仕組みが組み込まれています。

同じ8,000万円でも、受け取り方で税金が3倍以上変わる

たとえば、8,000万円を最後の「役員報酬」として上乗せして受け取ったとしましょう。給与所得として課税されるため、所得税・住民税を合わせると税率は50%を超えることも珍しくありません。この場合、税金は3,800万円超になります。

一方、同じ金額を「退職金」として受け取った場合、税金は約1,100万円。その差額はなんと約2,700万円です。

同じお金でも、受け取り方ひとつで手元に残る金額がこれだけ変わる。これが退職金節税の本質です。

「退職所得控除」というしくみ

退職金が給与より税負担が軽くなるのは、「退職所得控除」という特別な控除があるからです。

勤続年数に応じて控除額が計算されます。20年以下の部分は1年あたり40万円、20年を超えた部分は1年あたり70万円と、長く勤めるほど控除額が大きくなります。

勤続40年の場合で計算すると、こうなります。

  • 20年以下の部分:40万円 × 20年 = 800万円
  • 20年超の部分:70万円 × 20年 = 1,400万円
  • 合計控除額:2,200万円

8,000万円から2,200万円を引くと残り5,800万円。さらにここに「×1/2」という計算が加わります。

「÷2」が効く、退職所得の計算式

退職金の課税対象額は、次の式で計算します。

退職所得 =(退職金 ― 退職所得控除額)× 1/2

8,000万円の場合:(8,000万円 ― 2,200万円)× 1/2 = 2,900万円

8,000万円受け取っているのに、税金がかかるのは2,900万円分だけ。この段階で、課税対象がすでに35%まで圧縮されています。

2,900万円に対する所得税・住民税を計算すると、約1,100万円。実質的な税率は14〜15%です。給与として受け取った場合の3,800万円超と比べると、この差は歴然としています。

設計を誤ると控除が大きく削られる

ここで注意してほしいのが、退職所得控除は「勤続年数」に連動しているという点です。

長年社長を務めてきた方でも、法人設立からの年数が短かったり、途中で一度代表交代があったりすると、勤続年数のカウントに影響が出ることがあります。また、同じ年に複数の退職金を受け取った場合や、直近数年以内に別の退職金を受け取った履歴がある場合は、控除の計算方法が変わる可能性があります。

「うちは何となく退職金を設定してある」という会社で多いのが、退職慰労金規程が整備されていないケースです。規程がなければ、退職金そのものの損金算入が認められないリスクもあります。

退職金の設計は、引退の5〜10年前から始めるのが理想です。役員報酬の水準、在任期間の確認、退職慰労金規程の整備、受取タイミングの設計——これらを総合的に組み立てないと、税率15%の恩恵は得られません。

「まだ先の話」と思っていると、手遅れになる

退職金の節税は、「受け取る瞬間」には手が打てません。準備に時間がかかるからこそ、早く動いた人が大きな恩恵を受けられる節税手法です。

退職金規程をまだ整備していない、あるいは受取設計を一度も考えたことがないという社長は、今期中に顧問税理士と話し合うことをおすすめします。

8,000万円の退職金で2,700万円の差が出るとしたら、その1時間の打ち合わせは十分すぎるほどの価値があるはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。