「来年で会社を引退しようと思っています。退職金は8,000万円用意しているんですが、税金でいくら持っていかれますか?」

先日、飲食チェーンを40年間経営してきた60代の社長から、こんな相談を受けました。

「実効税率15%で済みますよ」とお伝えしたら、「えっ、それだけ?」と目を丸くされていました。

そうなんです。退職金には、給与とはまったく異なる手厚い税制が用意されています。正しく設計すれば、8,000万円の退職金でも税負担を大幅に抑えられるのです。

退職金が「給与より圧倒的に有利」な理由

給与や役員報酬は、そのまま所得税の課税対象になります。最高税率は45%で、住民税を加えると55%。年収の高い社長ほど税負担は重くなります。

ところが退職金の課税は、計算ルートがまったく異なります。

課税退職所得 =(退職金 − 退職所得控除額)÷ 2

この「÷2」が絶大な効果を発揮します。課税対象がまず半分になる。さらに「退職所得控除」という大きな非課税枠が別途あるのです。この2つが組み合わさることで、退職金の税負担は劇的に圧縮されます。

勤続40年なら2,200万円が非課税になる

退職所得控除の額は、勤続年数によって決まります。

勤続20年以下の場合は「40万円 × 勤続年数」、20年を超えると「800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年)」で計算します。

勤続40年であれば、800万円 + 70万円 × 20年 = 2,200万円が控除されます。長年会社を経営してきた社長ほど、この恩恵は大きくなります。ちなみに勤続30年でも1,500万円の控除枠があります。

8,000万円の退職金、実際に計算してみる

冒頭の社長のケース、退職金8,000万円・勤続40年で計算してみましょう。

まず退職所得控除を差し引きます。8,000万円 − 2,200万円 = 5,800万円。次にこれを半分にします。5,800万円 ÷ 2 = 2,900万円。

これが「課税退職所得」です。8,000万円受け取るのに、課税対象はわずか2,900万円まで圧縮されています。

この2,900万円に対する所得税・住民税を計算すると、約420万円程度。8,000万円に対して420万円の税負担ですから、実効税率は約**15%**になります。

同じ金額を給与として受け取っていたなら、税率は40〜50%に達します。退職金として設計することで、税負担が3分の1以下になるわけです。

実は法人税も同時に下がっている

見逃されがちですが、退職金には法人側にも大きなメリットがあります。

役員退職金は、全額が損金算入できます。8,000万円の退職金を支払った期は、法人の課税所得が8,000万円下がります。法人税率を30%とすると、約2,400万円の法人税削減効果が生まれます。

個人の所得税を抑えながら、法人税も同時に削減できる。これが役員退職金が「最強の節税スキーム」と呼ばれる理由です。一粒で二度おいしい、という言葉がこれほど当てはまる場面はなかなかありません。

「直前に動く」では手遅れになる

ただし、この節税を確実に実現するには事前準備が欠かせません。

最も重要なのが「役員退職金規程」の整備です。退職金の計算方法を規程で定め、株主総会で決議しておく必要があります。規程なしに支払った退職金は、税務調査で「恣意的な損金算入」と判断されるリスクが出てきます。

退職金の適正額の目安としては「功績倍率法」が一般的で、最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率(通常3.0程度まで)で計算されます。この範囲を大きく超えると、過大退職金として一部が否認される可能性があります。

さらに、退職金の財源として法人契約の生命保険を使うケースも多いのですが、解約返戻金のピーク時期と退職時期を合わせる設計が必要で、これは10年単位の話になります。「退職が近くなってから考える」では、選択肢がかなり限られてしまうのです。

知っているかどうかで、手取りが数千万変わる

退職金の税制は、知っているか知らないかだけで、手取り額が数千万円単位で変わります。同じ8,000万円の退職金でも、適切に設計すれば手元に残るお金がまるで違うのです。

まだ役員退職金規程を整備していない社長は、今期中に一度、税理士に相談してみることをおすすめします。設計は早ければ早いほど選択肢が広がります。「そのうちやろう」が最大のリスクです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。