先日、創業25年になる製造業の社長からこんな相談を受けました。「そろそろ自分の退職金を準備したいが、いざというときに会社の資金繰りを圧迫したくない」と。

退職金というのは、支給する期に一気にキャッシュが出ていきます。金額が大きいほど、その期の利益を大きく押し下げますし、下手をすれば運転資金まで食い込みかねません。だからこそ、実際に退職金を出している会社ほど、何年も前から原資をコツコツ積み立てているのです。

退職金は「後で慌てる」ものではなく「先に仕込む」もの

退職金の支給時期は、社長自身が決められることがほとんどです。だとすれば、逆算して原資を準備できるはずだ、というのがこの相談のポイントでした。

そこで出てくる選択肢のひとつが、解約返戻金のある法人保険です。毎年の保険料を払い込みながら資産性を積み上げていき、社長の勇退時期に合わせて解約する。解約すれば返戻金が会社に入り、それを退職金の原資に充てる、という流れです。

退職金を無計画に貯めようとすると、普通預金に積むしかありません。ですが法人保険であれば、保障機能を持たせながら計画的に資金をプールできる点が、経営者に選ばれる理由になっています。

経理処理は商品ごとに違う、という落とし穴

ここで注意したいのが、保険の経理処理は商品によってまったく異なるという点です。

全額損金になるもの、一部だけ損金算入できるもの、資産計上が必要なものなど、税務上の扱いは保険の種類ごとに細かく分かれています。契約してから「思っていた処理と違った」となると、決算全体の見通しが狂ってしまいます。

そのため、契約前に必ず税理士と一緒に経理処理を確認しておくことが欠かせません。営業担当者の説明だけを鵜呑みにせず、自社の決算にどう反映されるかを事前にシミュレーションしておくと安心です。

解約時期と退職時期は必ず合わせる

法人保険を退職金原資として使う際、最も大事な設計ポイントが「解約時期と退職の時期を合わせる」ことです。

解約返戻金には、契約から一定年数までは低く、ピーク時期を過ぎるとまた下がっていく、という山なりのカーブを描く商品が多くあります。このピークのタイミングと、実際に退職金を支給するタイミングがずれてしまうと、想定していたより少ない返戻金しか受け取れない、ということが起こり得ます。

たとえば「65歳で勇退する予定」なのであれば、そこから逆算して、返戻率が最も高くなる時期がその年齢に重なるように保険を設計する必要があります。加入時に何となく選ぶのではなく、勇退年齢を先に決めてから商品を選ぶ、という順番が正解です。

保障と貯蓄、目的を分けて考える

もうひとつ意識したいのが、その保険に「保障」と「貯蓄」のどちらの役割を主に求めるのかという整理です。

死亡保障を厚くしたいのか、それとも解約返戻金を最大化して退職金原資に充てたいのか。この2つは実はトレードオフの関係にあることが多く、両方を欲張ると、どちらも中途半端な設計になりがちです。

会社によっては、経営者の万が一の保障を主目的にした保険と、退職金原資づくりを主目的にした保険を分けて契約しているケースもあります。目的をはっきりさせてから商品を選ぶことで、後々の見直しもしやすくなります。

退職金の準備は、思い立ってからでは間に合いません。勇退時期をおおまかにでも決め、そこから逆算して原資づくりを始めておくと、いざというときに慌てずに済みます。まだ具体的な計画がないなら、今期のうちに顧問税理士と一度、勇退時期のシミュレーションをしてみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。