先日、製造業を営む社長からこんな相談を受けました。決算ぎりぎりに思い切って機械を購入したのに、いざ申告してみたら償却費がほとんど取れていなかった、というのです。

領収書もある、契約書もある、代金もきちんと払った。それなのになぜ経費にならなかったのか。社長は納得がいかない様子でした。

減価償却の起点は「買った日」ではない

結論から言うと、減価償却費を計算する基準は購入日ではなく「事業供用日」です。つまり、実際にその設備を事業のために使い始めた日が起点になります。

倉庫に届いただけ、梱包を開けただけ、設置工事中、といった状態はまだ事業に供用しているとは言えません。稼働させて初めて、償却がスタートするのです。

この社長のケースでは、機械が届いたのは決算の1週間前でしたが、実際に稼働を始めたのは決算日の前日でした。結果として、償却できる月数はわずか1か月分。数百万円の投資に対して、経費になったのはごくわずかという事態になっていました。

月割り計算という現実

減価償却費は年間の想定額をそのまま計上できるわけではなく、事業供用日から決算日までの月数で月割り計算されます。たとえば年間120万円の償却費が見込める設備でも、供用開始が決算1か月前であれば、その期に経費にできるのは10万円ほどにとどまります。

「今期の利益が出そうだから、節税のために設備を買っておこう」という発想自体は間違っていません。ただし、買うタイミングだけを見て、使い始めるタイミングまで意識できていないケースが非常に多いのです。

特に機械設備は、納品されてから試運転や調整、場合によっては工場のレイアウト変更まで必要になることがあります。発注から実際の稼働まで、想像以上に時間がかかるものだと考えておいたほうが安全です。

決算対策としての設備投資は「逆算」が鉄則

決算対策として設備投資を検討するなら、決算日から逆算して動く必要があります。目安としては、決算日の2〜3か月前までには発注を終え、遅くとも決算日の1か月前には稼働を開始できる状態にしておきたいところです。

リース会社や設備メーカーの繁忙期には納期が延びることも珍しくありません。「発注すればすぐ届く」という前提で動くと、この社長のように直前でスケジュールが崩れてしまいます。

また、稼働開始日を証明できる資料(試運転記録、稼働日報、電力使用の記録など)を残しておくことも大切です。税務調査で事業供用日を確認された際、根拠となる資料がないと、想定していた月数分の償却が否認されるリスクもあります。

決算前の設備投資を検討しているなら、「いつ買うか」よりも「いつから使えるか」を軸にスケジュールを組んでみてください。まだ発注前の段階であれば、今期中の稼働が本当に間に合うか、一度冷静に見積もってみるのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。