先日、製造業を営むある社長から『今期は利益が出すぎて、税金が痛い』というご相談を受けました。

話を聞いてみると、売掛金の中に、正直なところ回収が怪しいものがいくつか混ざっているとのこと。それでも「まだ貸し倒れたわけじゃないから」と、何もせずそのまま決算を迎えようとしていました。

これは、実にもったいない話です。

貸し倒れる前に損金にできる制度がある

売掛金や貸付金といった金銭債権は、実際に相手先が倒産したり支払不能になったりして初めて「貸倒損失」として経費にできる、と考えている方が多いのではないでしょうか。

ですが中小企業には、そこまで待たなくても、あらかじめ一定額を損金に算入できる仕組みが用意されています。それが貸倒引当金です。

売掛金などの期末残高に対して、業種ごとに定められた一定の率を掛けた金額を、貸倒引当金繰入額として損金にできます。この率のことを「法定繰入率」と呼びます。

業種によって水準は異なりますが、卸売業や小売業は比較的高め、金融業は低めというように、業種の実態に応じた幅で設定されています。自社がどの区分に該当するかは、顧問税理士に確認しておくと確実です。

使っていない会社が意外と多い理由

この制度、知名度の割に活用されていないケースをよく見かけます。

理由はシンプルで、「実際に貸し倒れが出ていないのに損金にしていいのか」と感覚的に引っかかる経営者が多いからです。また、決算書の見た目上は利益を圧縮する項目なので、金融機関からの見え方を気にして敬えて使わない、という判断をしている会社もあります。

しかし法定繰入率による貸倒引当金は、税法上きちんと認められた制度です。対象となるのは主に資本金1億円以下の中小法人等で、条件を満たしていれば、売掛金の一部を先回りして損金化できます。

仮に売掛金の期末残高が3,000万円ある会社であれば、業種に応じた繰入率を掛けた金額が、その期の損金として計上できる計算になります。金額の規模感としては、決して無視できる水準ではありません。

翌期は洗い替えが必要という点に注意

ここで押さえておきたいのが、貸倒引当金は「その期だけ得をして終わり」という制度ではないということです。

当期末に計上した引当金は、翌期首に一度取り崩して収益に戻す「洗い替え」という処理が必要になります。つまり単年度だけを見れば、節税というよりは課税のタイミングを後ろにずらしているという性質のほうが強いのです。

とはいえ、毎期継続して売掛金残高が一定水準ある会社であれば、毎期末に新たに引当金を計上し続けることで、実質的に課税を先送りし続ける効果が生まれます。これは資金繰りの面で見れば、無視できないメリットです。

特に売上が拡大基調にあり、売掛金残高も年々増えているような会社であれば、この制度の恩恵はより大きくなっていく可能性があります。

決算前に確認しておきたいこと

貸倒引当金の法定繰入率は、決算のタイミングで「知っていたかどうか」だけで差がつく制度です。会計処理としては難しいものではなく、対象となる債権の範囲や自社の業種区分を確認すれば、比較的スムーズに適用できます。

もし顧問税理士から一度もこの話を聞いたことがないという場合は、次の決算前に一度確認してみることをおすすめします。回収が怪しい売掛金を抱えたまま、何も手を打たずに決算を迎えるのは、選べる手段を一つ使わずに終えているのと同じかもしれません。

まだ自社が対象になるか分からないという方は、決算月を迎える前に、一度顧問税理士に確認しておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。