先日、創業者から会社を引き継いだばかりという二代目社長から、こんな相談を受けました。「顧問税理士に自社株の評価額を見せてもらったら、想像より二桁多い数字が出てきて青ざめました」。

決算書の数字を積み上げてきた結果とはいえ、いざ相続や贈与の場面で数千万円単位の税負担になると聞くと、誰でも冷静ではいられません。ただ、非上場株式の評価には打ち手があります。

自社株の評価は「利益・配当・純資産」で決まる

非上場企業の株価は、上場株のように市場で値段がつくわけではありません。国税庁が定める方式に沿って、会社の利益、配当の実績、そして純資産の大きさから逆算して評価額が計算されます。

つまり、会社が儲かっていて内部留保も厚いほど、株価は高く評価されるということです。優良企業ほど相続税で苦しむという、なんとも皮肉な構造がここにあります。

役員退職金は「合法的に株価を下げる」数少ない手段

ここで有効に使えるのが、役員退職金です。適正な範囲で退職金を支給すると、その年の利益が一時的に大きく落ち込みます。同時に退職金の支払いによって純資産そのものも減少します。

利益と純資産という、株価を構成する二つの柱を同時に押し下げられるため、退職金支給後の決算では自社株の評価額がかなり下がるケースが少なくありません。会長が勇退するタイミング、あるいは社長交代のタイミングは、まさに株価を下げる好機なのです。

退職金の金額は「功績倍率法」など税務上妥当とされる計算方法に沿って設定する必要があります。相場からかけ離れた高額な退職金は、税務調査で否認されるリスクがあるため、この点は必ず専門家と詰めておきたいところです。

評価が下がった年に、贈与・譲渡を仕掛ける

株価を下げただけで満足してはいけません。大切なのは、評価が下がったそのタイミングで後継者への贈与や譲渡を実行することです。

株価はあくまで決算のスナップショットで決まります。退職金支給の翌期以降、利益が回復してくれば評価額も元に戻っていきます。下がった瞬間を逃さず動くかどうかで、最終的な税負担は大きく変わってきます。

さらに、事業承継税制(法人版事業承継税制)の特例措置を組み合わせられれば、贈与税・相続税の納税が猶予される可能性もあります。適用には後継者の要件や事前の特例承継計画の提出など、細かな条件がありますが、条件を満たせば実質的な負担をさらに抑えられる場合があります。

タイミングを逃さないための準備が9割

この手法で一番よくある失敗は、「退職金は決めたものの、贈与の実行が翌々期にずれ込んで株価が戻ってしまった」というパターンです。

退職金の支給、株価の再評価、贈与契約の締結までを一つのプロジェクトとしてスケジュールに落とし込んでおくことが欠かせません。決算のタイミングと後継者の準備状況、両方をにらみながら逆算して動く必要があります。

まだ後継者への株式移転を具体的に計画していないなら、次の役員交代のタイミングを見据えて、今のうちに顧問税理士と株価シミュレーションをしておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。