先日、引退されたばかりの元社長からこんな話を聞きました。「社宅も、出張日当も、小規模企業共済も、使えたと知ったのは引退してからでした。顧問の先生は、ついぞ教えてくれなかった」。悔しさの滲む声でした。
この話、決して珍しいケースではありません。多くの中小企業オーナーが、現役中に同じ思いをしています。
「言われなかった」のは先生のせいではない
まず知っておいていただきたいのは、これは必ずしも税理士側の落ち度とは限らないということです。
税理士の仕事には、大きく分けて「申告を正確に行う」業務と、「節税を積極的に提案する」業務があります。この二つは似ているようで、契約上はまったく別物です。
顧問契約の範囲が記帳代行と申告書の作成にとどまっている場合、税理士は依頼された業務を淡々とこなしているだけであり、それ自体は契約違反でも手抜きでもありません。むしろ、聞かれてもいないことに首を突っ込んで、後で「勝手に判断された」とトラブルになるリスクを避けている先生も少なくないのです。
引退後に気づく制度の多さ
とはいえ、現場でよく「使えたのに使わなかった」と後悔される制度は決まっています。
代表格が、役員社宅です。会社が住居を借り上げて役員に貸与する形にすれば、家賃の大部分を経費にでき、個人の手取りを増やす効果があります。
次に、出張旅費規程に基づく日当です。規程さえきちんと整備すれば、出張のたびに一定額を非課税で受け取ることができ、会社側も経費計上できます。
そして小規模企業共済。掛金が全額所得控除になるうえ、退職金代わりの資金として積み立てられる、経営者にとって数少ない「使わない理由がない」制度です。
いずれも、税理士が黙っていて使えなかったというより、社長側から具体的に聞かれない限り、税理士も「今のご希望ではない」と判断して提案を控えているケースが多いのです。
決算の3ヶ月前に、聞く場を作る
では、どうすればよかったのか。答えはシンプルです。決算日の3ヶ月前をめどに、顧問税理士と対策会議の場を設定することです。
このタイミングであれば、まだ利益の着地見込みを動かす余地が残っています。そして会議の場で、こちらから一言、こう聞いてください。
「うちの規模と業種で、今使える制度は何がありますか」
この質問一つで、顧問料の元は十分に取れます。税理士は「聞かれれば答える」プロフェッショナルです。受け身であることを責めるより、こちらから引き出す関係を作るほうが、はるかに建設的です。
毎年の決算が終わってから「もっと早く知りたかった」と悔やむのではなく、決算前に一度、この会議を組み込んでみてください。それだけで、翌年の景色が変わってくるはずです。
まだ顧問税理士との定例会議を設けていないなら、次の決算に向けて今期中にアポイントを取っておくのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。