先日、後継者候補のある方からこんな相談を受けました。「父から株を買い取って会社を継ぎたいのですが、億単位のお金なんて用意できません」と。
事業承継というと相続や贈与のイメージが強いかもしれませんが、実際には先代から株式を買い取る「譲渡」で承継するケースも少なくありません。そしてここで必ずぶつかるのが、買取資金の壁です。
なぜ株の買取に大金が必要になるのか
非上場企業の株価は、帳簿上の資産価値だけでなく、将来の収益力なども加味して評価されます。長年利益を積み上げてきた優良企業ほど、株価評価は高くなります。
つまり、経営が順調な会社ほど「継ぎたくても買えない」というねじれが起きやすいのです。役員報酬を何年か貯めた程度では到底足りず、数千万円から億単位の資金が必要になるケースも珍しくありません。
多くの後継者候補が、この時点で承継そのものを諦めてしまいます。しかし、この資金は融資で調達できる対象だということは、あまり知られていません。
日本政策金融公庫の事業承継融資を使う
日本政策金融公庫には、事業承継を目的とした融資制度が用意されています。先代からの株式買取資金や、経営権集約のための資金も対象に含まれます。
民間の金融機関では「個人が株を買うための借入」に難色を示されることがありますが、公庫の制度融資であればこの用途に対応した枠組みが存在します。まずは事業承継計画の内容を持って、公庫の窓口や顧問税理士に相談してみることをおすすめします。
審査では、事業の将来性や返済計画の妥当性が重視されます。行き当たりばったりで申し込むのではなく、承継後の事業計画をきちんと数字で示せる状態にしておくことが通過の鍵になります。
個人で借りるのが怖いなら、持株会社という選択肢
「制度があるのは分かったが、個人であれだけの借金を背負うのは怖い」という声もよく聞きます。もっともな感覚です。
そこで検討したいのが、後継者が持株会社を設立し、その持株会社が融資を受けて株式を買い取るという方法です。買い取った株式は事業会社の株式であり、その事業会社から持株会社へ配当を出すことで、返済の原資に充てます。
この仕組みのポイントは、返済の主体が「後継者個人」ではなく「会社の利益」だという点です。自分の給料や貯金を切り崩して返すのではなく、会社が稼ぐキャッシュフローの中で完結させる。個人保証の重さに対する心理的なハードルは、この設計でかなり軽くなります。
進める前に押さえておきたいこと
この方法にも当然、注意点はあります。
持株会社の設立や株式移転には登記費用や専門家への報酬がかかりますし、配当を返済原資にする以上、事業会社の収益が安定していることが前提になります。また融資である以上、金融機関への返済計画の説明責任は残り続けます。
税務上の取り扱いも、個人が直接買い取る場合と持株会社を経由する場合とでは変わってきます。株価評価の方法や、将来の相続・譲渡まで見据えた設計が必要になるため、必ず税理士や金融機関と一緒に組み立てるべき領域です。
事業承継の壁は、多くの場合「お金がないから継げない」ではなく「お金の作り方を知らないから継げない」だけのことがあります。
もし今、株の買取資金が理由で承継の話が止まっているなら、まずは顧問税理士に事業承継融資の相談を持ちかけてみるのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。