先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「妻を役員にして毎月40万円払っていたのに、税務調査で否認されてしまった」と。
家族への給与は、中小企業のオーナー社長にとって定番の節税策です。所得を分散させることで、世帯全体の税負担を抑えられるからです。ところが、この社長のケースのように、調査で真っ先に狙われるのもまた家族給与なのです。
なぜ家族への給与は狙われるのか
調査官が家族給与を見るとき、チェックするポイントはシンプルです。実際に働いているか、そして働いた内容に見合った金額かどうか。
この社長の場合、奥さまを役員にして月40万円を支払っていましたが、出社の記録も、日々の業務内容を示す資料も残っていませんでした。結果、「勤務実態がない」と判断され、給与として認められなかったのです。
否認されると、その分の所得は会社の利益に加算され、追徴課税の対象になります。節税のつもりが、かえって重い税負担を招いてしまうわけです。
「実態」をどう証明するか
ではどうすれば、家族への給与を堂々と払えるのでしょうか。
ポイントは、仕事の中身を客観的な記録として残しておくことです。具体的には、次のようなものが有効です。
- 出社記録(タイムカードや入退室ログ)
- 業務日報(何をどれだけの時間行ったか)
- 担当業務の成果物(作成した資料、対応したメール、打ち合わせの議事録など)
これらが揃っていれば、「この金額はこの仕事に見合っている」と説明できます。逆に言えば、記録がなければ、どれだけ実際に働いていても否認されるリスクが残ります。
金額の妥当性にも注意
もう一つ見落としがちなのが、金額の妥当性です。仮に週2〜3日、経理サポート程度の業務であれば、月40万円という金額は世間相場と比べて高いと判断されることがあります。
役員報酬であれば、同業他社の役員報酬水準や、担当業務の市場価値を意識して金額を決めることが大切です。感覚で決めた金額は、調査で真っ先に突かれるポイントになります。
所得分散は「証拠」があってこそ
家族への給与は、正しく運用すれば有効な所得分散の手段です。所得税は累進課税のため、一人に集中させるより、実態のある家族に分散させたほうが世帯の税負担は下がります。
ただしそれは、実態を証拠で示せることが大前提です。証拠がなければ、節税策ではなく否認リスクの塊になってしまいます。
もし今、家族に給与を払っているのに出社記録や業務日報が整っていないなら、今期中に整備しておくことをおすすめします。調査が入ってから慌てて用意しても、後付けの記録は信用されにくいものです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。