先日、ある製造業の社長からこんな話を聞きました。今期は思いのほか利益が出そうだったので、期の途中で役員報酬を月50万円上げたそうです。ところが翌年の税務調査で、その増額分がまるごと否認されてしまったといいます。

「儲かったんだから、自分の報酬を上げて何が悪いんだ」と思う方も多いはずです。でも税務署から見ると、これは典型的な利益調整とみなされてしまう行為なのです。

役員報酬は「同じ額を毎月払う」のが大原則

法人税の世界には「定期同額給与」というルールがあります。簡単に言うと、役員報酬は毎月同じ金額を支払っていて初めて、全額を会社の経費として認めますよ、という決まりです。

この原則があるからこそ、会社は「今月は利益が出たから多めに」「来月は苦しいから少なめに」といった調整ができません。もしそれを自由に許してしまうと、決算間際に利益を見ながら役員報酬を後出しでいじって、法人税をいくらでも圧縮できてしまうからです。

先ほどの社長のケースでは、期の途中、つまり事業年度の真ん中あたりで報酬を50万円上げてしまいました。この増額分は「定期同額」の条件を満たさないため、損金、つまり経費として認められません。

会社側では法人税の課税所得に増額分が上乗せされ、それでいて社長個人は増えた報酬にきっちり所得税・住民税がかかります。会社と個人の両方で課税されるという、二重にダメージを受ける結果になってしまうのです。

では、いつなら報酬を変えられるのか

ここで気になるのが「じゃあ報酬はいつ変更すればいいのか」という点だと思います。

原則として、役員報酬の改定は事業年度が始まってから3ヶ月以内に行う必要があります。3月決算の会社であれば、4月から6月末までの間に、その期1年間の報酬額を確定させるということです。

つまり社長は、期が始まる前後のタイミングで「今期はどれくらい利益が出そうか」を見積もり、その予測をもとに1年分の報酬を先に決めておかなければなりません。期の途中で「思ったより儲かったから増やそう」という後出しは通用しないわけです。

これは裏を返せば、決算の直前になって慌てて節税策を考えるのではなく、期首の段階でどれだけ精度の高い利益予測を立てられるかが勝負になるということでもあります。

決算前の利益予測が、社長の年に一度の大仕事

売上や粗利の見込み、大型の設備投資予定、賞与の支給計画など、材料はすでに手元にあるはずです。それらを積み上げて「今期はこれくらいの利益が出そうだ」という仮説を立て、そこから逆算して役員報酬を決める。

この一連の作業を、期首のタイミングで税理士と一緒にしっかり行っておくことが、結果的に一番効果の高い節税になります。期中に慌てて動くよりも、はるかに手堅い方法です。

なお、業績が著しく悪化した場合の減額改定など、例外的に認められるケースもいくつか存在します。ただしこれも要件が細かく決められているため、自己判断で「これは業績悪化にあたるはずだ」と進めるのは危険です。

増額であれ減額であれ、期中に役員報酬をいじりたくなったときほど、まず税理士に相談してから動くことをおすすめします。

今期の役員報酬をまだ深く検討していないなら、決算月から逆算して、今のうちに来期の利益予測と報酬額のシミュレーションを始めておくとよいでしょう。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。