先日、後継者として会社に入って3年目になる若社長から、こんな相談を受けました。
「自社株の移転は、まだ承継が先の話なので今は動かさなくていいですよね」
悪気があっての発言ではありません。むしろ「今は業績が伸びている最中だから、落ち着いてから考えたい」という、経営者としてはごく自然な感覚だと思います。
ですが、この考え方には見落としがちな落とし穴があります。
株価は業績が伸びるほど上がっていく
非上場会社の株価は、株式市場のように日々変動するわけではありませんが、決算のたびに評価し直されます。
評価の基礎になるのは、純資産や利益といった会社の実力そのものです。つまり、会社が順調に成長しているなら、それに比例して自社株の評価額も上がっていきます。
業績好調は経営者として喜ばしいことです。ただし承継の視点で見ると、話は少し変わってきます。
自社株を後継者に贈与するにせよ、相続で引き継ぐにせよ、評価額が高くなれば、それだけ贈与税や相続税の負担も重くなるからです。
5年前なら1株あたり数千円だった評価額が、業績拡大の結果、数万円まで上がっているケースは珍しくありません。同じ株数を移すにも、税負担は数倍に膨らむことになります。
「早いほうがいい」と単純には言えない理由
では、とにかく早く移してしまえばいいのかというと、それも違います。
承継のタイミングは、後継者の経営者としての準備状況、社内外の理解、資金繰りなど、税金以外の要素も絡む経営判断です。株価だけを理由に拙速に動かすと、別の問題を招くこともあります。
実務でよく採られるのは、次の2つのタイミングです。
1つ目は、たまたま株価が低い局面。設備投資で利益が圧縮された期や、業績の踊り場にあたる年です。
2つ目は、株価対策を打って一時的に評価額を下げたタイミング。役員退職金の支給や、含み損のある資産の整理など、いくつかの手法を組み合わせて評価額を下げてから動かす方法です。
どちらにも共通しているのは「株価が低い窓」を見つけて、そこで承継を実行するという発想です。この窓は業績次第でいつ開くか分からないため、日頃から自社株の評価額を定点観測しておく必要があります。
先送りのコストは想像以上に大きい
相談に来られた社長にお伝えしたのは、こういうことです。
「承継の実行時期」と「自社株を動かす時期」は、必ずしも同じでなくていいんです。承継自体はまだ先でも、株価が低い今のうちに、少しずつ株式を移しておく選択肢があります。
実際、業績が右肩上がりの会社ほど、この差は大きくなります。仮に評価額が毎年1割ずつ上がっていく会社であれば、5年先送りするだけで移転コストは1.5倍以上に膨らむ計算になります。
先送りは一見リスクを取らない選択に見えますが、税務上はむしろコストを積み増す選択になりかねません。
株価対策には、種類株式の活用や持株会社化など、会社の状況に応じた選択肢がいくつもあります。どの手法が合うかは、業種や財務状況、後継者の年齢によって変わってくるため、早めに顧問税理士と一緒に自社株評価の現状を確認しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。