「うちの自社株、相続税の計算で使う評価額っていくらになるか、把握していますか?」
先日、年商8億円ほどの部品メーカーを経営する60代の社長に、こう尋ねてみました。しばらく沈黙の後、「正直、計算したことがない」という答えが返ってきました。
自社株の評価額は、感覚よりもずっと高くなることがあります。「帳簿上の純資産が2億円だから、株価もそのくらいだろう」と思っていたのに、実際に計算してみたら6億円を超えた——そんなケースは珍しくありません。
では、なぜそこまで乖離が生まれるのか。今日は実際によく起こる「想定外を招く3つの落とし穴」をお伝えします。
3位:不動産の含み益が、まるごと株価に乗ってくる
中小企業の自社株評価には、大きく分けて「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」の2つがあります。どちらを使うかは会社の規模によって決まり、小規模な会社(「小会社」)に該当すると、純資産価額方式を100%適用しなければなりません。
この純資産価額方式が曲者です。
会計上の純資産ではなく、「相続税評価額ベースの純資産」で計算するからです。具体的には、会社が保有している不動産の含み益がそのまま反映されます。
たとえば、20年前に2,000万円で購入した土地が、いまの路線価ベースで6,000万円に評価されるとしましょう。帳簿上は2,000万円のままでも、株価計算では6,000万円として扱われます。差額の4,000万円が、そのまま株価を押し上げるわけです。
都市部に自社ビルや駐車場を持っている会社は要注意です。「土地を持っているから安心」と思っていたのに、相続の場面では「土地を持っているせいで株価が上がってしまった」という逆転現象が起きます。
2位:業績が好調な翌年に相続が起きると、株価が数億単位で跳ね上がる
類似業種比準価額方式は、直前3期の利益・配当・純資産をもとに株価を算出します。業績が好調な時期に相続が発生すると、この3期平均が高い状態で評価されるわけです。
あるIT系の会社でこんなケースがありました。コロナ禍の特需で売上が3年連続で急伸し、最終利益が各期2,000万円台から6,000万円超に跳ね上がった。その翌年、創業社長が急逝。このタイミングで算出した株価は、3年前の評価の約3.5倍になっていました。
利益が高いと株価が上がる、というのは感覚的にわかる話です。ただ「3期分の平均で計算される」という仕組みのせいで、今期が多少落ち着いても過去の好業績がしばらく尾を引きます。業績が一時的に上振れた会社は、その後数年間、株価評価が高止まりするリスクがあるのです。
「会社が儲かっているから大丈夫」という油断が、相続の場面でそのまま重税に変わります。
1位:生前に何もしていなかった
これが最大の落とし穴です。
株価を下げるための対策はいくつかあります。役員退職金を活用して会社の利益を圧縮する方法、含み損のある資産を処分して純資産を調整する方法、計画的に自社株を後継者へ移転していく方法——どれも有効ですが、すべて「準備に時間が必要」という共通点があります。
役員退職金を活用するには、在任年数や役員報酬の実績が積み上がっている必要があります。生前贈与で株を移すなら、暦年贈与であれば年間110万円ずつ、時間をかけて少しずつ動かすしかありません。
つまり、突然の相続が発生したとき、「やっておきたかったこと」はほぼ何もできないまま終わります。打てる手があるのは、生前だけです。
これは脅しではなく、「今動けば間に合う」という話です。50〜60代の経営者であれば、まだ十分に時間があります。
まず「今の株価」を知ることから始める
対策の第一歩は、現状把握です。
自社株の評価額は、税理士に依頼すれば試算できます。「相続が起きたとき、株価はいくらになるか」「相続税の概算はどのくらいか」——この2つを知るだけで、対策の優先度がはっきり見えてきます。
まだ自社株の評価額を把握していないなら、今期の決算が出たタイミングで一度試算してみることをおすすめします。想定外の数字が出たとき、早く知るほど打てる手は多くなります。準備を始めるのに、早すぎるということはありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。