先日、ある製造業の社長から電話がかかってきました。

「今期は業績がよくて、来月から役員報酬を月20万円上げようと思ってるんだけど、何か注意することある?」

話を聞きながら、私はすぐに「いつ変更するんですか?」と確認しました。答えは「今月から、つまり8月から」。決算は3月です。

これは危険なパターンです。

役員報酬は「事業年度の最初の3ヶ月」しか変えられない

社員の給与は、昇格や業績に合わせていつでも変更できます。でも役員報酬はまったく別のルールが適用されます。

法人税法では、役員報酬の変更は原則として「事業年度開始から3ヶ月以内」に限られています。この期間を過ぎてから増額すると、増えた分は損金(経費)として認められないのです。

損金不算入になるということは、その金額に対してしっかり法人税がかかってくるということ。報酬を上げたのに、逆に税負担が増えるという皮肉な結果になります。

「期限後に変えたらどうなるか」——数字で見る現実

月20万円の増額を、3月決算の会社が期限後の7月から実施したとしましょう。

決算(翌年3月末)までの9ヶ月間、増額分が毎月積み上がっていきます。合計すると20万円 × 9ヶ月 = 180万円が損金に算入されません。

この180万円に法人税(中小企業の実効税率を約34%で試算)が課されると、180万円 × 34% ≈ 61万円が余計な税負担になります。

社長本人が受け取る報酬は増えているのに、会社が支払う税金もそれ以上に増えてしまう——これが「期限を知らなかった」場合に起きることです。

3月決算の会社は「6月末」が絶対的な締め切り

自社の決算月に合わせて、変更できる期限を確認しておきましょう。

  • 3月決算:4月〜6月末が変更ウィンドウ
  • 9月決算:10月〜12月末が変更ウィンドウ
  • 12月決算:1月〜3月末が変更ウィンドウ

決算月の翌月から数えて3ヶ月目の末日が「タイムリミット」です。ここを1日でも過ぎたら、次の事業年度まで待つしかありません。

「業績が上がったから報酬も上げたい」という判断は正しい。ただし、タイミングを間違えると節税効果がゼロどころかマイナスになります。

例外もあるが「ほぼ使えない」と思っておく

期限外でも変更が認められる例外が一つあります。それが「業績の著しい悪化」です。

これは資金繰りが行き詰まって役員報酬を下げざるを得ない、といった経営危機に近い状況を指します。「予算が少し厳しくなった」「想定より利益が出なかった」程度では認められません。

増額方向での例外適用は、実務上ほぼないと考えておいた方が安全です。

「気づいたら期限が過ぎていた」をなくす一つの習慣

この問題でもっとも多いのが、「考えているうちに6月が終わっていた」というケースです。

役員報酬の見直しは決算後の株主総会や取締役会で決議するのが自然な流れ。3月決算なら5〜6月の株主総会前後が検討タイミングですが、日々の業務に追われると後回しになりがちです。

対策はシンプルです。今日、スマホやカレンダーに「来年5月:役員報酬の見直し検討」と入れておく。たったそれだけで、数十万円規模の節税機会を守ることができます。

役員報酬は、法人の節税における最大の武器のひとつです。期限さえ守れば、社長自身の手取りを増やしながら会社の課税所得を合法的に圧縮できます。逆に、タイミングを外すと武器が自分に刺さります。

今期の変更期限がまだ残っているなら、いちど顧問税理士と報酬水準の見直しを相談してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。