先日、3月末決算の会社を経営する社長からこんな連絡が届きました。「4月から自分の給料を増やそうと思ってるんだけど、別に好きなタイミングでいいよね?」
思わず「ちょっと待ってください」と返してしまいました。
役員報酬は、従業員の給与と違って、法人税法上の厳しいルールに縛られています。このルールを知らないまま動くと、増やしたはずの報酬が「損金不算入」になり、法人税を余分に払うはめになります。しかもその金額は、想像以上に大きい。
変えていいのは、年に一度だけ
法人税法には「定期同額給与」という概念があります。毎月同じ金額を支払い続けていれば損金(経費)として認める、というルールです。
ただし、金額を変える場合には条件があります。事業年度開始の日から3か月以内に改定しなければならない、というものです。
3月末決算の会社なら、4月・5月・6月が変更できる唯一のウィンドウ。7月に入ってから「やっぱり上げよう」と思っても、税務上は認められません。この期限は、ほぼ例外なく厳格に適用されます。
1日でも過ぎたら、増額分は全額アウト
「少し過ぎたくらいなら大丈夫だろう」と思う方もいるかもしれません。でも税務の世界では、そういう甘さは通用しません。
期限後に月20万円増額したとすると、年間で240万円が損金から外れます。法人税の実効税率を30%とすれば、約72万円の税負担増。「給料を上げたはずなのに、なぜか会社の手元が減った」という事態が起きます。
増額した報酬は社長の手元に入りますが、その分の法人税も余分に発生する——これが「損金不算入」の怖さです。
なぜこんなルールがあるのか
このルールが存在する理由は、「都合のいいときだけ報酬を動かして、税負担を操作させない」という趣旨にあります。
決算が近づいて利益が出すぎたからといって、急に役員報酬を増やして利益を圧縮する——そういった恣意的な操作を防ぐための仕組みです。事業年度の初めに「今期の業績見通しと経営判断に基づいて報酬額を決めてください」というメッセージが込められています。
だからこそ、期限内なら増額も減額も自由です。ただし、それ以降の変更は原則として損金算入が認められません。
例外はあるが、ハードルは相当高い
「業績悪化改定事由」として、期中でも減額が認められるケースは法令上存在します。会社の業績が著しく悪化し、報酬水準を維持することが困難な場合です。
ただし「著しく悪化」の判断は非常に厳格で、「ちょっと利益が落ちたから」という程度では認められません。また、役員の職制や職務の内容に重大な変更があった場合(代表取締役から平取締役へのダウングレードなど)も、例外が認められることはあります。
いずれの場合も、税理士との事前確認が絶対条件です。「例外があると聞いたので自分で判断した」という対応は、税務調査で否認されるリスクが高い。
「役員報酬会議」を毎期の習慣にする
対策はシンプルです。決算後の3か月以内に、必ず役員報酬を見直す機会を設けること。これを「役員報酬会議」として毎期の定例行事にしている会社は、こうしたミスをほとんど起こしません。
見直しの際に確認したいポイントは主に3つです。
- 今期の利益見通しに対して、報酬水準は適切か
- 社会保険料とのバランスは取れているか
- 来期の資金繰りや設備投資計画を考慮しているか
これらを税理士と一緒に検討し、期限内に決定する。それだけで「知らなかった」による損失はほぼゼロになります。
期限を過ぎていたら、来期に向けて動く
もしすでに変更期限が過ぎていて「しまった」と気づいたなら、今期は諦めて来期の準備に集中するのが正解です。
焦って今から変更しても、増額分は損金不算入になるだけ。むしろ今から顧問税理士と来期の報酬設計を議論し始めることに時間を使ってください。「3か月以内にどの水準が最適か」を早めにシミュレーションしておけば、来期は余裕を持って対応できます。
役員報酬の3か月ルールは、知っている人には当たり前のことです。しかし知らなかった人の損失は、年間で数十万円になることもあります。期初の3か月は、社長にとって「報酬設計の唯一の窓口」だと覚えておいてください。
決算が終わったら、まず顧問税理士に「今期の役員報酬はどうしますか?」と声をかける。その一言が、余分な税金を払わないための最短ルートです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。