先日、年商3億円ほどの建設会社の社長から、こんな相談を受けました。「毎年それなりに稼いでいるのに、手元に残るお金が年々少なく感じて……」。
話を聞いてみると、会社の利益をほぼ全額、役員報酬として受け取っていました。一見すると当然のやり方に見えますが、実はこれが「税負担が雪だるま式に膨らむ」状態にはまっているサインです。
役員報酬だけで受け取ると、何が起きるか
役員報酬は、受け取った個人側で「給与所得」として課税されます。給与所得には所得税と住民税がかかり、合算の最高税率はなんと55%。
年収が4,000万円を超えるあたりから、稼いだ1円のうち55銭が税金として持っていかれる計算になります。努力すればするほど、国に渡す比率が増えていく——これが累進課税の現実です。
もちろん給与所得控除という恩恵はあります。ただし控除額の上限は195万円。報酬が高くなるほど控除の恩恵は相対的に薄くなり、高所得の社長ほど割を食う構造になっています。
「配当」という、もう一つの引き出し口
会社の利益を受け取る方法は、役員報酬だけではありません。「配当」という選択肢があります。
配当を申告分離課税で申告した場合、税率は所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%、合計20.315%。これは所得の多寡にかかわらず、一律です。
高所得の社長であれば、役員報酬と配当の間に30%以上の税率差が生まれます。
具体的に数字で見てみましょう。追加で1,000万円を受け取るとして、役員報酬として受け取れば最高税率55%で税額は約550万円。同じ1,000万円を配当で受け取れば、税額は約203万円。差額は300万円超です。これが「知っている社長」と「知らない社長」の間に生まれる、年間の手残り差です。
「では全部、配当にすればいい」とはならない理由
ここまで読むと「じゃあ全額を配当にしよう」と思いたくなりますよね。ところが、そう単純にはいかないのが税務の奥深いところです。
最大のポイントは、配当は法人の経費にならないということ。役員報酬であれば会社の経費として計上でき、法人税の課税所得を圧縮できます。配当にはその効果がないため、配当を増やすと今度は法人税の負担が重くなります。
また、役員報酬を低く抑えると社会保険料の負担は減りますが、将来の厚生年金受給額も連動して減ります。老後の備えも含めた設計が必要です。
住宅ローンの審査も、個人の所得で判断されます。役員報酬を極端に下げると、ローンが通りにくくなるという副作用も見逃せません。
最適バランスは、4つを同時に計算して初めて見えてくる
役員報酬と配当の最適比率を決めるには、少なくとも以下の4つを同時に考慮する必要があります。
- 法人税(役員報酬を経費化することで削減できる額)
- 所得税・住民税(役員報酬の累進税率 vs 配当の一律税率)
- 社会保険料(役員報酬の額に比例して増減)
- 配当課税が法人税額に与える影響
どれか一つだけを見て「得か損か」を判断すると、別の穴から税金が漏れていくことになります。
実際に試算すると、社長の年齢・報酬水準・会社の利益額によって最適解は大きく変わります。「役員報酬は年1,200万円がベスト」という社長もいれば、「800万円に抑えて残りを配当に回す」という社長もいる。正解は人によってまったく異なります。
「気づいたとき」では遅いケースがある
一点、重要な注意があります。役員報酬は、期首から3ヶ月以内の定時改定が原則です。年度の途中で「やっぱり配当のほうが有利だった」と気づいても、今期の設定を変えることはできません。
だからこそ、決算の数字が出たタイミングで翌期の役員報酬の設計を考えておくことが大切です。
役員報酬と配当のバランスについて、まだ税理士と腰を据えて話し合ったことがないなら、次の決算期が来る前にシミュレーションを依頼してみてください。30%の税率差は、年収規模が上がるほど取り返しのつかない金額差になっていきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。