先日、創業10年を超えるIT系の社長から、こんな相談を受けました。

「役員報酬、設立当初から変えてないんですが、まずいですか?」

聞いてみると、会社を立ち上げた頃に顧問税理士から言われた金額を、そのまま10年近く使い続けているとのこと。売上は3倍以上に伸びているのに、報酬だけが据え置きのまま。これ、かなりもったいない話なんです。

役員報酬は「なんとなく」で決めると損する

多くの社長が、役員報酬を深く考えずに決めています。

「会社にお金を残したいから低めに」「生活費が必要だから高めに」。こうした感覚的な判断が、毎月数十万円単位の損失につながっていることがあります。

役員報酬の金額は、所得税・住民税・社会保険料・法人税という複数の税金と保険料に、同時に影響を与えます。これらは互いにトレードオフの関係にあるため、単純に「高いほど良い」「低いほど良い」という話ではないんです。

報酬が高すぎると何が起きるか

役員報酬を上げると、個人の手取りが増えそうに思えます。でも実際は、所得税と住民税が累進課税でじわじわ跳ね上がります。

年収1,000万円を超えると所得税率は33%、1,800万円超で40%、4,000万円超で45%に達します。さらに社会保険料(健康保険+厚生年金)も報酬に連動して増えていきます。

たとえば年収1,500万円の役員が報酬を2,000万円に引き上げた場合、増やした500万円のうち手取りに残るのは200〜250万円程度というケースも珍しくありません。増やした分の半分以上が、税金と保険料で消えてしまうわけです。

報酬が低すぎると何が起きるか

逆に、役員報酬を低く抑えればいいかというと、そうでもありません。

会社に利益が残れば、法人税(中小企業の実効税率は概ね23〜30%前後)がかかります。役員報酬は会社の損金(経費)として算入できるため、適切に報酬を取ることで会社の課税所得を圧縮できます。

また、社長個人の所得が低すぎると、住宅ローンの審査が通りにくくなったり、老後の年金受給額が少なくなったりといったデメリットも出てきます。短期的な節税だけを意識して、生活設計全体を崩してしまうことになりかねません。

「甘い地点」はどこにあるか

役員報酬の最適額は、所得税・社会保険料の増加ペースと、法人税の節税効果が均衡するポイントにあります。

一般的に、年収800万〜1,200万円あたりが節税上の「旨味ゾーン」になることが多いとされています。ただしこれは会社の規模、家族構成、他の収入、役員借入の有無などによって大きく変わります。一律の正解はなく、個別のシミュレーションが不可欠です。

年商1億円規模の会社でも、役員報酬の設定を適切に見直すだけで、年間200〜500万円以上の差が生まれることは珍しくありません。毎月換算すると16〜40万円以上の話。それ以上の差が出るケースもあります。

見落としがちな「年1回ルール」

役員報酬には大きな制約があります。それは、原則として年度の途中で変更できないという点です。

税務上、役員報酬を損金として認めてもらうには「定期同額給与」の要件を満たす必要があります。毎月同じ金額を支払い続け、変更できるのは原則として事業年度開始から3ヶ月以内というルールです。

気づいたときに変えようとしても、決算が終わるまで待たなければならない。その間ずっと、不最適な金額で課税され続けます。「来年から変えよう」と先延ばしにするほど、機会損失は積み重なっていくわけです。

今すぐ確認してほしいこと

今の役員報酬を決めた時期と理由を、まず思い出してみてください。

「設立当初に言われた金額をそのまま使っている」「売上が変わったのに見直していない」「なんとなく生活費の目安で決めた」……どれか当てはまるなら、一度シミュレーションをしてみる価値があります。

特に決算期が近い社長は急いでください。変更できるタイミングはすぐそこです。来期の事業年度が始まってから3ヶ月以内に動けるよう、今のうちから税理士と相談しておくのが最善です。

役員報酬は、社長が最もコントロールしやすい節税手段のひとつ。それを「なんとなく」で放置しているとしたら、毎月数十万円を捨てているのと同じかもしれません。今期の決算が終わる前に、ぜひ一度見直しをしてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。