「今年も気づいたら6月になってしまいました」

ある製造業の社長(年商3億円)から、7月に入ってこんな連絡が来ました。

「役員報酬を上げたかったんですが、もう変えられないですよね?」

残念ながら、そのとおりです。3月決算の会社であれば、役員報酬を変更できるのは6月末まで。7月1日を過ぎてしまったら、その設定で丸1年間走り続けることになります。

なぜ3ヶ月しか変更できないのか

税務上、役員報酬が「定期同額給与」として損金算入されるためには、事業年度の開始から3ヶ月以内に改定しなければなりません。これは税法で定められたルールで、変えたくても変えられない硬直した制度です。

3月決算の会社なら4〜6月、12月決算なら1〜3月が変更できるウィンドウ。それ以外の時期に変えると、変更後の差額分が損金不算入になり、法人税の課税ベースがその分増えてしまいます。

つまり、「7月に月1万円増やした」だけで、残りの期間ずっと余分な税金を払い続けることになるのです。

設定を間違えると、どれくらい損するのか

「別に今の報酬額でいいじゃないか」と思う方もいるかもしれません。でも、役員報酬の設定は単純に「もらう額」の問題ではありません。

会社の利益にかかる法人税と、個人の所得税・住民税・社会保険料は、役員報酬の額によってバランスが大きく変わります。役員報酬を低く抑えると会社に利益が残り法人税が増える。高く設定しすぎると、今度は個人の所得税・住民税・社会保険料が跳ね上がります。この「法人税の節約額」と「個人の税負担増」が交差するポイントを見つけることが、最適化の肝です。

実際、ある飲食業の社長のケースでは、役員報酬を月85万円から月70万円に見直すだけで、年間の手取りが160万円以上増えたことがあります。社会保険料の上限構造をうまく活用した結果です。

「最適額」は人によって違う

よく聞かれるのが「役員報酬はいくらが一番お得ですか?」という質問です。残念ながら、これは一概には言えません。最適額は次の要素で変わるからです。

  • 会社の利益水準(今期の着地予想)
  • 家族構成(扶養家族の人数、配偶者の収入)
  • 社会保険料の等級(報酬月額の区切りがある)
  • その他の収入(不動産収入、他の役員報酬など)

特に社会保険料は、報酬月額が一定のラインを超えると急激に跳ね上がる構造になっています。月に1万円の違いが、年間で数十万円の差を生むことも珍しくありません。こうした要素を踏まえて試算すると、最適額と現状のズレで年間200万円近く変わるケースも出てきます。毎月の手取りにすると16万円以上の差です。

今すぐやること:着地予想を出す

変更のタイムリミットが近い方(特に3月決算で、今が4〜6月の方)に今すぐやってほしいのが「今期の利益着地予想」を出すことです。

期末に近いほど精度の高い予想が出せます。今期の売上・経費の推移を見て、「このままいくと利益はいくらになりそうか」を数字で把握する。その数字を税理士に伝えれば、最適な役員報酬の試算ができます。逆に言えば、この数字がないと試算もできません。

「なんとなく去年と同じ額でいい」という感覚値での設定は、知らず知らずのうちに税金を余計に払っているリスクをはらんでいます。

6月末を過ぎたら、次の手を打つ

もし今すでに6月末を過ぎてしまっているなら、今期の役員報酬は変えられません。ただ、手が完全になくなるわけではありません。

たとえば、事前確定届出給与の仕組みを使えば、一定の条件下で役員への賞与を損金算入することができます。また今期の着地が見えてきた段階で、来期に向けた最適額の試算を早めに始めることも重要です。

「今期は仕方ない、来期こそちゃんとやろう」と思ったなら、その気持ちを今すぐ行動に変えてください。来期の期首が来たときには、忙しさにかまけてまた後回しにしてしまいます。これが毎年繰り返されるのが、もったいない節税損失の典型パターンです。

役員報酬の見直しは、毎年の決算スケジュールの中にルーティンとして組み込む。それだけで、何もしない場合と比べて生涯で数千万円単位の差が出ることも珍しくありません。

まだ今期の役員報酬を見直していないなら、今日中に顧問税理士に連絡してみてください。タイムリミットは、思っているよりずっと近くにあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。