先日、年商2億円ほどの設備会社を経営するある社長と話していたときのことです。

「役員報酬ってずっと同じ額にしてるんですけど、それってどうなんですかね…」

そう言いながら苦笑いしていました。毎年の決算は顧問税理士に任せているけれど、「報酬額が本当に最適かどうか」まで突っ込んで聞いたことはない、と。こういう社長、実はとても多いんですよね。

役員報酬を変えると、手取りが年200万円変わる

まず結論から言っておくと、役員報酬の金額設定ひとつで、社長の手取りが年間50万〜200万円変わることがあります。

なぜそんなに変わるのか。答えは「法人税」と「個人の所得税・社会保険料」という2つのコストが、役員報酬の額によってそれぞれ変動するからです。

役員報酬を増やすと、法人側の利益が減って法人税は下がります。でも、社長個人の収入が増えるので、所得税や社会保険料の負担が上がります。どちらを優先するかではなく、この「トレードオフのバランス点」を見つけることが大事です。

法人税率には800万円の壁がある

少し詳しく見てみましょう。

法人税の実効税率は、課税所得が800万円以下なら約22%、800万円を超えると約34%まで跳ね上がります。この差は大きい。

法人の課税所得が800万円を超えそうなとき、役員報酬を増やして法人の利益を800万円以下に抑えると、税率が約12%下がります。売上規模によっては、それだけで数十万円の節税になります。

ただし、役員報酬を上げすぎると、今度は社長個人の所得税がどんどん上がっていきます。所得税は累進課税なので、報酬が増えるほど税率が高くなり、住民税と合わせると最大55%まで上がります。「法人税を下げようと思って報酬を増やしたら、個人の税負担が増えてトータルでは損だった」というのは、よくある落とし穴です。

社会保険料も見落とせない

もうひとつ、見落とされがちなのが社会保険料です。

役員報酬が増えると、健康保険・厚生年金の保険料も上がります。月額報酬が上がれば標準報酬月額が上がり、保険料の負担が増える仕組みです。

保険料は会社と個人の折半負担なので、「会社のコスト」としても無視できません。役員報酬を月10万円上げたとき、実際に手取りがどれだけ増えるかを計算すると、思っているより少ない、ということが頻繁に起きます。これが「なんとなく高めに設定しておけばいい」では通用しない理由です。

シミュレーションをすると、最適額が見えてくる

では、最適な役員報酬はいくらなのか。

答えは「会社の利益規模や、社長のライフスタイル・老後設計によって異なる」ので一概には言えません。ただ、シミュレーションをしてみると、驚くほど明確に「ここが最適額です」というポイントが見えてきます。

計算に使う要素は、だいたいこの3つです。

  • 会社の年間利益(役員報酬を引いた後の課税所得)
  • 社長個人の所得税・住民税・社会保険料のシミュレーション
  • 役員報酬を変えた場合の、会社・個人の税負担の総合計

この3つを合算して「最も税負担が少なくなる報酬額」を探すのが、最適額の出し方です。数字で見ると、年200万円の差が出ることも珍しくありません。

決算から逆算して、今期中に動けるか確認を

役員報酬は、原則として事業年度が始まってから3ヶ月以内に設定する必要があります(定期同額給与)。期中に変えると、原則として損金算入が認められません。

つまり「決算が終わってから考えよう」ではなく、「次の期が始まる前に設定を見直す」という習慣が大切です。

もし今期の決算が近いなら、着地予測を出して報酬の見直し余地があるかどうかを今のうちに確認しておきましょう。1年に1回しかないタイミングを逃すと、また1年待つことになります。


顧問税理士に「うちの役員報酬、シミュレーションしてみてもらえますか?」と一言聞いてみてください。それだけで、年間の手取りが大きく変わる可能性があります。役員報酬は、社長が自分でコントロールできる数少ない「節税レバー」のひとつです。今期の決算前に、一度見直しを検討してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。