先日、社員8人を抱える建設会社の社長から、こんな相談を受けました。

「退職金って、準備しないといけないのはわかってるんですけど、正直、資金繰りが不安で手をつけられていなくて……」

その気持ち、よくわかります。退職金というのは、将来の大きな支出として頭の片隅にはあっても、今の売上・仕入れ・人件費に追われていると、なかなか腰が上がらないものです。

でも、話を聞いて少し間を置きました。「それ、むしろ今すぐ始めないと損してますよ」と。

掛金が全額経費になる、国の退職金制度

中退共、正式名称は「中小企業退職金共済制度」。国が運営している退職金の積み立て制度で、会社が毎月掛金を支払うと、それが従業員の退職金として積み上がっていく仕組みです。

最大のポイントは、その掛金が全額その年の経費(損金)として計上できること。

社員10人に月2万円ずつ掛金をかけると、1年間で240万円。これがそのまま損金算入されます。実効税率が30%の会社であれば、年間で約72万円の税負担が減る計算です。

5年続ければ経費の累計は1,200万円。税引き後の利益への影響を考えると、決して小さな数字ではありません。

退職金の支払い時に会社のお金が出ていかない

よく聞く退職金の悩みは「いざ払うとき、まとまったお金が一気に必要になる」という点です。社員が突然辞めた、定年を迎えた、そのタイミングで数百万円を用意しなければならない。中小企業にとって、これが意外と重い。

中退共の場合、退職金は制度から直接従業員に支払われます。会社の口座を経由しないんです。

つまり、毎月コツコツ掛金を払っておけば、退職時に会社のキャッシュが一気に出ていく事態が起きない。「積む」と「払う」が完全に切り離されているのが、この制度の設計として優れているところです。資金繰りへの影響を気にせずに退職金準備ができる、というのは社長にとってかなり大きなメリットです。

掛金は柔軟に設定できる

掛金の設定は1人あたり月5,000円から3万円まで、16段階で選べます。全員一律でなくても構いません。パートタイムの方は低めに、正社員は高めに、という設定も可能です。

また、新規加入の会社には国からの補助もあります。加入後4ヶ月間は国が掛金の半額を負担してくれる制度があるので、スタート直後の実質コストはさらに低くなります。

ただし、一度設定した掛金は下げることが難しい仕組みになっています。加入前に従業員数と将来の退職金水準を試算してから決めるのが安全です。顧問税理士に「中退共の試算をしてほしい」と一言伝えるだけで、具体的なシミュレーションを出してもらえます。

「どうせ辞めない」が最大のリスク

「うちの社員はみんな長く勤めてくれてるから、退職金はまだ先の話」

そう思っている社長さんほど、要注意です。

中退共に加入していない状態は、毎年経費化できるお金を見逃し続けている状態でもあります。退職金が必要になるのが5年後でも10年後でも、制度の恩恵を受けるのは「今から始めた会社」だけ。始めた日が早ければ早いほど、積み上がる経費と節税額も大きくなります。

なお、中退共は従業員のための制度です。社長や役員は原則として加入対象外になります(一部の特定業種を除く)。自分自身の退職金を経費化したい場合は、役員退職金の積立や生命保険を活用した別の手法を検討する必要があります。あくまで「従業員を雇っている会社が、社員の退職金を経費化する」という切り口の話です。

まだ中退共に加入していない会社であれば、今期中に動き出してみてください。手続き自体は難しくなく、最寄りの金融機関や中退共の窓口で申し込めます。節税は、知っている人だけが得をする世界です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。