先日、従業員が6人いる建設会社の社長から、こんな相談を受けました。
「退職金って、いつかは払わないといけない気がするんですが、積み立てると利益が圧迫されるじゃないですか。何かうまい方法ないですかね」
この悩み、正直かなり多くの中小企業オーナーが抱えています。払う義務があるような気はするけれど、準備すると資金が減る。経費になるのかもよくわからない——そんな状態で、何年も後回しにしている社長を何人も見てきました。
月2万円の掛金が、年24万円の経費になる
結論から言います。中小企業退職金共済(中退共)を使えば、退職金の積み立て分がそのまま**全額経費(損金算入)**になります。
従業員1人あたり月2万円の掛金を設定した場合、年間で24万円が丸ごと経費に算入されます。法人税の実効税率が約30%だとすると、それだけで年7万円以上の税負担が減る計算です。
従業員が5人いれば、年間の掛金総額は120万円。節税額は約36万円にのぼります。「知っているかどうか」の差だけで、毎年これだけの金額を損し続けている会社が実際に存在しています。
中退共とは何か、まず仕組みを整理する
中退共は、国(独立行政法人勤労者退職金共済機構)が中小企業の従業員の退職金を代わりに管理・運用してくれる共済制度です。
仕組みはシンプルです。会社が毎月掛金を支払い、従業員が退職するときに共済から直接本人へ退職金が振り込まれます。会社が退職金を社内に積み立てておく必要がないので、「退職金をどう払うか」という実務的な不安も一緒に解決します。
そして最大のポイントが、この掛金が全額その年の経費として認められること。退職金準備と節税を同時に達成できる——この二つを一石二鳥で手に入れられるのが中退共の強みです。
加入初年度は「国が半額を負担」してくれる
もうひとつ、見逃せない特典があります。加入後1年間は、掛金の半額を国が助成してくれます(月5,000円が上限)。
月1万円の掛金なら、最初の12ヶ月は5,000円が国から補助される形になります。つまり実質的に会社の持ち出しが半分になるわけで、加入のハードルは想像以上に低くなっています。
こういった「国の補助付き制度」は、知っている人がしっかり活用して、知らない人が損をするという構図が典型的です。制度の存在自体を知らないまま毎年決算を迎えている会社は、今も相当数あります。
掛金の設定と運用で押さえておきたいこと
掛金は月5,000円から3万円まで16段階から選択できます(業種や規模によって一部異なります)。従業員の勤続年数や給与水準に応じて設定するのが一般的で、途中で増額することもできます。
ただし、一点だけ注意が必要です。掛金の減額は原則として難しいという点です。一度設定した金額を下げようとすると、従業員の同意が必要になります。最初は少し控えめな掛金に設定しておいて、経営が安定してきたら増額する、という進め方が堅実です。
役員は対象外——ここだけは間違えないで
ここは誤解が多いので、しっかり確認しておきましょう。
中退共の対象は「従業員」です。社長や取締役などの役員、そして役員とみなされる親族等は原則として加入できません。「自分の退職金も積み立てながら節税できる」と思って検討する社長がいますが、それは別の制度の話です。
経営者自身の退職金準備には、小規模企業共済など別の選択肢を活用することになります。中退共はあくまで「従業員のための制度」と覚えておいてください。
決算前でも間に合う。今期の利益が出そうなら動き時
中退共の手続きは比較的シンプルで、最寄りの金融機関(銀行・信用金庫など)や商工会議所の窓口から加入申込ができます。
決算前に「今期は利益が出そうだ」と気づいたとき、すぐに動けるかどうかが節税の分かれ目です。掛金を払った月から経費になるので、決算2〜3ヶ月前でも十分に間に合います。
まだ従業員の退職金制度を整備していない会社は、今期中に検討してみることをおすすめします。節税と従業員への福利厚生——その両方に同時に効く数少ない制度のひとつです。手続きを先延ばしにするたびに、使えたはずの節税枠が消えていきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。