先日、従業員5名を抱える飲食業の社長からこんな相談を受けました。「退職金の準備、何もしていないんだけど…これって問題ですか?」

こういう相談、実はとても多いんです。退職金規程を整備していない中小企業は珍しくありませんし、「いざとなれば考えよう」と先延ばしにしてしまいがちです。

でも、退職金の問題を後回しにしていると、2つのものを同時に失います。1つは優秀な従業員の定着力。もう1つは、毎年使えたはずの節税枠です。

今日お伝えするのは「中退共」という制度です。正式名称は中小企業退職金共済制度。国が運営しているこの仕組みを使えば、退職金の積立と節税を同時に実現できます。

月3万円が、丸ごと経費になる

中退共の最大の特徴は、毎月の掛金が全額損金算入できること。つまり、支払った掛金がそのまま経費として計上できます。

たとえば従業員1人あたり月3万円の掛金を設定したとしましょう。年間36万円が丸ごと経費になります。法人税率が30%だとすると、年間で約11万円の節税効果。従業員5人いれば、それだけで年間55万円の節税になる計算です。

通常、退職金は「払うとき」に経費計上するのが一般的です。でも中退共を使えば「積み立てるたびに」経費になる。これが根本的な違いです。毎月の掛金を経費として落としながら、退職金の原資を着実に積み上げていけます。

加入すると、国から助成まで出る

驚くのはここからです。中退共に加入すると、加入後4ヶ月間、国が掛金の半額を助成してくれます。

月3万円の掛金なら、1万5千円が国から補填されます。実質1万5千円の負担で3万円分積み立てられる計算で、この期間だけで最大6万円のキャッシュバック効果があります。

さらに、掛金を増額した際にも増額分の3分の1を1年間助成してもらえます(上限は月額千円)。制度を知っていれば当たり前に受け取れる恩恵を、多くの経営者が見逃しています。

退職金規程がなくても始められる

「うちはまだ退職金規程を作っていないから…」という社長もいますが、中退共を導入すること自体が退職金制度の整備につながります。規程がない状態でも加入でき、加入後に社内規程を整備する形でも問題ありません。

掛金の設定は月5千円から3万円の範囲で16段階から選べます。従業員の勤続年数や役職に応じて金額を変えることもできます。業績に応じて少額からスタートし、利益が出た年に増額するという使い方も現実的です。

ただし、いくつか注意点があります。中退共はあくまで従業員のための制度です。社長(代表取締役)や役員は加入できません。また、いったん積み立てた掛金は基本的に会社には戻ってきません。退職した従業員に直接支払われる仕組みになっています。

「積み立てた資金が会社のお金として残らない」という性質を理解した上で使う制度です。それでも、経費として落としながら従業員の退職金を準備できるメリットは、十分に大きいと言えます。

「まだ先の話」が、一番もったいない

退職金の準備を後回しにしている間、毎月の掛金相当額は経費にならず、そのまま税金として出ていっています。年間36万円の経費計上機会を10年間逃せば、360万円の損金算入チャンスを棒に振ることになります。

従業員が5人いれば10年で1800万円。法人税率30%で試算すると、540万円分の節税を逃した計算になります。こう考えると、「退職金なんてまだ先の話」とは言っていられません。

今期の決算前に動く価値がある

中退共は掛金の全額損金算入が認められているため、今期中に加入すれば今期の税金を減らすことができます。決算が近い社長は特に、今すぐ顧問税理士に確認することをおすすめします。

手続き自体はシンプルです。申込書を中退共本部または委託金融機関に提出するだけで、加入後は毎月の掛金が口座から自動引き落とされます。

まだ退職金制度を整えていないなら、中退共は最もシンプルで税務メリットの大きい選択肢の一つです。従業員の定着につながりながら、掛金を全額経費にできる。「一石二鳥」の制度を使わない理由はありません。

今期の決算前に、一度顧問税理士と中退共の話をしてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。