先日、年商3億円の建設会社を経営する社長から、こんな相談を受けました。

「売上は順調なのに、手取りが全然増えた気がしないんです。また役員報酬を上げようかと思っているんですが……」

気持ちはよくわかります。でも、ちょっと待ってください。報酬を増やす前に、知っておくべき「もっと賢いやり方」があります。

報酬を月50万上げても、手取りはたった30万円

仮に役員報酬を月50万円増やしたとします。一見、そのまま手取りも増えそうに思えますよね。

ところが現実は違います。所得税・住民税・社会保険料を合わせると、増加分の30〜40%が消えていきます。つまり50万円の報酬を増やしても、実際に使えるお金は月30万円程度。残り20万円はそのまま税金として消えてしまうわけです。

年間に換算すると、240万円が税に消える計算です。「役員報酬を上げてもなぜか豊かにならない」と感じる正体は、ここにあります。

課税されない経済的価値を積み上げる

では、どうすれば手取りを実質的に増やせるのか。

答えはシンプルで、「課税されずに使える経費」を最大限に活用することです。正しく設計された経費は、個人の所得税がかからないまま、生活の質を直接底上げしてくれます。

社長専用に認められている経費カテゴリは、大きく7つあります。役員社宅、社用車、出張日当、企業型DC(確定拠出年金)、健康診断、研修費、交際費です。これらを組み合わせると、課税なしで月50万円分の経済的価値を積み上げることも、決して夢ではありません。

7つの経費カテゴリ、使いこなすと何が変わるか

まず効果が大きいのが「役員社宅」です。会社が物件を借りて役員に貸し出す形にすると、家賃の大半を会社負担にできます。個人で月20万円の家賃を払っているケースを会社契約に切り替えると、その差額は「手取りが増えた」のと同じ意味を持ちます。これだけで月20万円以上の差が生まれることも珍しくありません。

「社用車」も見逃せません。通勤・業務利用が主目的であれば、車両の取得費から保険、メンテナンスまで経費として落とせます。個人でローンを組んでいた場合との差は、想像以上に大きいです。

「出張日当」は意外と見落とされがちですが、旅費規程を整備した上で支給すると、受け取った役員側には原則として課税されません。出張が多い業種では、年間数十万円の差になります。

「企業型DC」は将来の老後資金でありながら、掛金の全額が会社の損金になります。本人の所得税の課税対象にもなりません。節税しながら資産形成できる、一石二鳥の制度です。

健康診断や人間ドックの費用も、会社が負担すれば経費になります。研修費も同様で、業務に関連するセミナーや書籍代は正当な経費として計上できます。交際費については、中小企業は年間800万円まで損金算入できるルールがあります。接待費や会食を適切に管理することで、生活費との境界線を上手に設計できます。

「正しく設計する」ことが最大のポイント

ここで重要な注意点があります。これらの経費は、「形式だけ整えれば何でも通る」という甘いものではありません。

例えば役員社宅の場合、会社が支払う家賃のうち一定割合は役員本人から徴収しなければなりません。この計算を間違えると、差額が「給与」として課税対象になります。社用車も、業務と私用の割合が問題になることがあります。

制度を知っているだけでは不十分で、「正しく設計すること」が肝心です。適切な規程の整備や賃料の計算方法など、細かい要件を一つひとつ満たしていく必要があります。

今期の行動が、来年の手取りを変える

「使える経費」の仕組みは、報酬を上げるより税の漏れが少なく、会社にとっても節税につながります。決算を終えた後に「もっと早く動けばよかった」と後悔するのは、もったいないです。

役員社宅や旅費規程をまだ整備していないなら、今期中に着手することをおすすめします。顧問税理士がいる方は、7つの経費カテゴリを一覧で見せながら「うちでまだ使えていないものはどれですか?」と聞いてみてください。そこから具体的な設計が始まります。

手取りを増やすための答えは、報酬の「額」より「構造」にあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。