先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。
「うちの会社、息子に継がせようと思ってるんだけど、相続税ってどのくらいかかるの?」
年商は約4億円。社員30名ほどの、地域では名の通った会社です。軽い気持ちで聞いてきたその社長の顔が、私の答えを聞いてみるみる青ざめていきました。
「試算してみると、相続税が3億円を超えるかもしれません」
「3億……?現金でそんな金額、うちには用意できない」
これが事業承継の落とし穴です。知らないまま放置していると、30年かけて築いた会社が、税金によって他人の手に渡りかねません。
なぜ「年商数億の会社」でも3億円の相続税が発生するのか
多くの社長が誤解しているのが、「うちの会社はそこまで大きくないから大丈夫」という感覚です。
でも現実は違います。年商3〜5億円の中小企業でも、株式の評価額は5〜7億円になることがよくあります。
なぜかというと、株式評価は「売上」ではなく「純資産」や「収益力」をもとに計算されるからです。長年利益を積み上げてきた優良企業ほど、株式評価額は高くなります。あなたの会社が儲かっている証拠ともいえますが、相続の観点からは「高評価=高い相続税」を意味します。
株式評価額が6億円の場合、後継者が相続すると相続税は3億円を超えることも珍しくありません。しかも相続税は原則一括払いです。
現金がなければ「会社を売るしかない」という現実
「3億円の現金なんてない。でも会社は大切な息子に継がせたい」
こうなったとき、選択肢は限られています。
一つは金融機関からの借入ですが、相続税の納付資金として数億円を借りられる個人はそう多くありません。もう一つは持ち株の一部を売却する方法ですが、経営権が揺らぐリスクがあります。最終的に「会社ごと売る(M&A)」を選ばざるを得ないケースも実際に起きています。
あなたが30年かけて育ててきた会社が、「想定外の請求書」によって他人の手に渡る。これが事業承継を放置した場合の、最悪のシナリオです。
2027年12月までの「特例措置」を使えば相続税ゼロも可能
ただ、希望はあります。
「事業承継税制の特例措置」という制度を使えば、後継者が引き継ぐ株式にかかる相続税・贈与税を最大100%猶予することができます。
通常の事業承継税制は猶予率が80%にとどまりますが、2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出し、所定の要件を満たすことで猶予率が100%に引き上げられます。猶予後も一定の要件を満たし続ければ、そのまま免除になるケースも多いです。
ただし、使える期間は決まっています。計画提出の期限は2027年12月31日。「まだ先の話」と思っていると、あっという間に期限を過ぎてしまいます。
「まだ早い」が一番危ない
事業承継は準備に2〜3年かかるのが普通です。特例の申請手続きだけでなく、後継者への経営移転、株価を引き下げるための事前対策(役員退職金の活用や組織再編など)も含めると、今すぐ動き始めても決して余裕があるとはいえません。
「まだ自分は元気だから」「息子もまだ準備ができていない」という声はよく聞きます。でも、事業承継は「社長が動けるうちに」始めないと手遅れになります。万が一のことがあってから動こうとしても、相続が発生してしまった後では特例措置は使えません。
まずは今期中に、取引先の税理士に「うちの株価っていくらになりますか?」と聞いてみてください。その数字が、あなたを行動させるきっかけになるはずです。
事業承継は「節税」という言葉で語られることが多いですが、本質は「あなたが育てた会社を、次の世代に正しく渡すこと」だと思います。3億円という数字を目の前にしてから動くのでは、できることが大きく限られてしまいます。
今日、税理士に一本電話を入れてみてください。それが、30年の積み上げを守る第一歩です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。