先日、製造業を経営する62歳の社長からこんな相談を受けました。
「税理士に株価を計算してもらったら、約2億円という話で。自分が死んだとき、息子に継がせたいんですが……相続税ってどれくらいかかるんですかね」
試算してみると、相続税だけで数千万円規模。会社の現金でそう簡単に払えるわけではなく、最悪の場合は株を一部売却、あるいは会社から借入して納税という事態も想定されます。
でも実は、この負担を実質ゼロにできる制度があるんです。
事業承継税制「特例措置」が変えるもの
2018年に大幅拡充された事業承継税制の特例措置は、中小企業の非上場株式を後継者に贈与・相続する際の税負担を「最大100%猶予」する制度です。
通常であれば贈与税・相続税がかかるところを、後継者が経営を継続している限り、納税を猶予し続けてくれます。つまり実質的にゼロ円のまま会社を引き継げる仕組みです。
冒頭の社長の場合なら、2億円分の株にかかる相続税が丸ごと猶予される計算になります。「そんな都合のいい話が本当にあるのか」と思われるかもしれませんが、これは国が中小企業の円滑な世代交代を後押しするために設けた、正真正銘の税制優遇です。
「一般措置」と「特例措置」、何が違うのか
事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2種類があります。
一般措置は以前からある制度で、贈与税は100%猶予されますが、相続税の猶予は80%まで。株数にも上限があります。対して特例措置は贈与税・相続税ともに100%猶予、対象株数の上限も撤廃されています。
さらに後継者を最大3名まで設定できる点や、雇用維持要件が実質的に緩和された点など、使い勝手が格段に上がっています。対象は非上場の中小企業であれば、製造業・飲食業・サービス業など業種を問いません。
使えない会社もある——「資産保有型会社」の壁
ただし、どんな会社でも使えるわけではありません。いくつか注意すべき要件があります。
先代経営者については、会社の代表者であること、一定の議決権を保有していることなどが条件です。後継者については、代表者に就任すること、贈与の場合は先代が代表を退任することが必要になります。
そして特に注意が必要なのが**「資産保有型会社」の扱い**です。不動産や有価証券など運用資産が会社総資産の一定割合以上を占める会社は、原則として対象外となります。会社の中に遊休不動産を多く抱えている場合、事前の整理が必要になるケースもあります。
このあたりの判定は専門家でないと正確に判断しにくいため、顧問税理士への相談が必須です。
2027年12月31日——この期限を絶対に忘れるな
最も強調したいのが、申請の期限です。
特例措置を活用するには、2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県の認定機関に提出し、受理される必要があります。そして実際の贈与・相続の実行も2027年12月31日が期限です。
「まだ先の話だから」と思っている方も多いですが、計画の認定から手続き完了まで、相応の準備期間がかかります。顧問税理士との打ち合わせ、後継者の就任準備、会社の株価評価、書類の整備——どれも一朝一夕では終わりません。
2026年の今、動き始めないと、2027年末のタイムリミットは思ったより近くに感じるはずです。
あの社長のその後
冒頭の社長は、顧問税理士と相談のうえ、今年中に特例承継計画の認定を受けることを決めました。息子さんへの株の贈与は来年以降を予定しているとのことです。
「この制度を知らないまま相続が起きていたら、会社が揺らいでいたかもしれない」という言葉が印象的でした。
事業承継は「急に必要になる」話題です。社長が元気なうちに、後継者と一緒に動き始めることが何より重要です。まだ特例措置を検討していないなら、今すぐ顧問税理士に「事業承継税制の特例、うちは使えますか?」と聞いてみてください。その一言から、すべてが動き出します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。