6月といえば夏季賞与のシーズンです。先日、従業員20名ほどの建設業の社長から、こんな相談を受けました。
「賞与100万円を出したのに、うちの従業員の手取りが思ったより全然少ないって言われて。どういうこと?」
社長の戸惑いはもっともです。そして現実は、その感覚よりさらにシビアです。
賞与100万円、手元に残るのは「60万円」という現実
賞与100万円を支給した場合、従業員の手元に残るのはおよそ60万円です。
残りの約40万円は、所得税と社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)で差し引かれます。給与よりも一度に支給額が大きい賞与は、控除の絶対額も当然大きくなります。
さらに見落としがちなのが、会社側の負担です。
社会保険料は会社と従業員で「折半」する仕組みになっています。従業員から控除した保険料とほぼ同額を、会社が別途納付しなければなりません。賞与100万円に対して、この会社負担分がおよそ15万円。
結果として、会社は100万円の賞与を出すために実質115万円を支出しているのです。
115万円を出して、従業員に届くのは60万円。差額の55万円、実に約48%が税と保険料に消えている計算になります。
「なんか半分近く消えている気がする」という感覚は、数字でもはっきり裏付けられてしまいます。
「選択制DC」というまだ知られていない制度
では、この重い負担を合法的に減らす方法はあるのか。そこで活用できるのが、「選択制確定拠出年金(選択制DC)」という制度です。
まだ中小企業ではあまり普及していませんが、実は規模を問わず導入できる、非常に実用的な節税手法です。
仕組みをざっくり言うと、「賞与や給与の一部を、現金で受け取る代わりに、確定拠出年金(DC)の掛金として積み立てる」という選択肢を従業員に与えられる制度です。ポイントは「受け取り方を変えるだけ」というシンプルさで、従業員が複雑な手続きをするわけではありません。
なぜ社保と所得税が同時に減るのか
通常、賞与は受け取った時点で社会保険料と所得税の計算対象になります。
ところが、DC掛金として積み立てた分は「賞与として受け取っていない」という扱いになるため、社会保険料の算定から除外されます。所得税についても同様に非課税です。
従業員にとっては「社保と所得税が下がって手取りが増える」という、わかりやすいメリットがあります。そして会社にとっても、従業員の社保が下がれば連動して会社負担の折半分も下がるため、双方に恩恵がある点が大きな特徴です。
うまく設計できれば、賞与にかかる税・保険料の負担を30〜50%削減できるケースもあります。
従業員への説明で押さえておきたい2点
選択制DCは有効な制度ですが、制度の性質上、従業員への丁寧な説明が欠かせません。特に以下の2点は必ず事前に伝えてください。
ひとつ目は掛金に上限があること。企業型DCの掛金は月額上限が設けられており(会社の状況によって異なりますが、月5.5万円程度が目安)、賞与のすべてをDCに振り替えられるわけではありません。
ふたつ目は60歳まで引き出せないこと。DCに積み立てた資産は、原則として60歳になるまで取り出すことができません。老後の資産形成という観点では長所ですが、急に資金が必要になっても引き出せない点は、「老後の積み立て」であることをしっかり理解したうえで選択してもらう必要があります。
夏の賞与に間に合わせるなら、今すぐ動く
選択制DCを会社に導入するには、金融機関を通じた規約の作成や行政への届け出が必要で、準備に数カ月かかるのが一般的です。
今期の夏季賞与に間に合わせたいなら、今この瞬間が動き出すタイミングです。毎年「賞与を出すたびに半分近く消えるな」と感じているなら、一度税理士か社会保険労務士に相談してみてください。会社にとっても従業員にとっても双方にメリットのある仕組みは、そう多くはありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。