先日、ある経営者から驚かれたことがあります。「社長、今の家賃を会社で経費にできるかもしれませんよ」と伝えた瞬間、目が丸くなりました。東京・港区で毎月30万円の家賃を払っていたその社長は、制度を正しく使えば毎月20万円近くを会社の経費にできると知り、「なんで誰も教えてくれなかったんですか」と苦笑いしていました。

これが「役員社宅制度」です。知っている人には当たり前の話ですが、意外と活用できていない中小企業がまだまだ多いのが現実です。

会社が借りて、役員に貸す。それだけで経費になる

役員社宅とは、会社が役員の住む部屋を借り上げて、そのまま役員に転貸しする仕組みです。

ポイントは「会社が借主になる」という点。こうすることで、家賃は会社の経費として計上できます。役員が個人で同じ家賃を払っても、それは単なる個人の支出です。でも会社を経由するだけで、経費になる。この構造が節税の肝です。

もちろん、役員がタダで住むわけにはいきません。国税庁の計算式に基づいた「賃料相当額」を役員が会社に支払う必要があります。ただ、この計算式が絶妙で、市場家賃の15〜20%程度の金額になることが多いのです。

年240万円、法人税72万円の節税効果

具体的な数字で見てみましょう。

仮に市場家賃が月25万円の部屋を会社が借りたとします。役員が会社に支払う賃料相当額は計算式によりますが、月5万円前後になることもあります。すると会社の実質的な経費負担は月20万円。これが12ヶ月続けば、年間240万円が会社の損金になります。

法人税率を30%で計算すると、節税効果は年間72万円。10年続ければ720万円以上の差になります。役員報酬の額を変えずに、会社の税負担だけを下げられるのがこの制度の最大の強みです。

役員報酬を増やせば所得税・社会保険料が上がる。でも社宅制度は、そのジレンマを回避できる数少ない手段の一つです。

「賃料相当額」の計算を間違えると逆効果になる

ただし、一点だけ絶対に外してはいけない注意点があります。

賃料相当額の計算を誤ると、「差額が役員への給与だ」と税務署に認定されるリスクがあります。たとえば月25万円の家賃に対して役員の負担が月1万円だと、差額の24万円が役員給与とみなされ、所得税・社会保険料の課税対象になってしまいます。これでは節税どころか、余計な税負担が発生します。

計算式は建物の床面積や固定資産税評価額をもとに算定されるため、導入前に必ず税理士に確認することをお勧めします。「うちの家賃だといくら負担すればいいですか?」のひと言を持ち込めば、すぐに計算してもらえます。

こんな会社に特に向いている

活用しやすいケースをまとめると、次のような状況の会社です。

  • 役員が月15万円以上の賃貸住宅に住んでいる
  • 東京・大阪など都市部に住んでいる(家賃が高いほど効果大)
  • 今期まだ決算前で節税の手が打てていない

逆に、持ち家の役員に適用する場合は別の計算ロジックになるため、まずは賃貸の役員がいる会社から検討するのが現実的です。

今期の決算前に動けるか確認を

社宅制度は「今月から始めれば今期分から効く」制度です。決算が近い会社でも、数ヶ月残っていれば十分に効果が出ます。たった一つの制度を整備するだけで、年間70万円以上の節税ができる可能性があるなら、動かない理由はないはずです。

まだ社宅制度を使っていないなら、今期中に顧問税理士へ「うちは使えますか?」のひと声をかけてみてください。そのひと言が、毎年の税負担を大きく変えるきっかけになります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。