先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「毎年それなりに税金を払っているんだけど、もしかして損してる?」と。決算書を拝見したら、使えたはずの制度が3つも素通りされていました。試算してみると、年間で約280万円の節税チャンスを逃していたことになります。
「知らなかっただけ」で300万円近くを余分に払い続けている——これは決して珍しい話ではありません。今回は、中小企業の社長が見落としがちな節税ポイントを5つ、率直にお伝えします。
5位:旅費規程がない会社の「日当ロス」
出張した社員や役員に対して、日当を支払っていますか?
旅費規程を整備していれば、日当は受け取った側に所得税がかかりません。同じ金額を給与として支払うより、手取りが増えて会社の経費も増える——双方にとってお得な仕組みです。
社長が月2〜3回の国内出張をしているとして、日当を1日5,000円と設定するだけで、年間十数万円単位の差が生まれます。旅費規程は就業規則ほど複雑ではなく、1〜2ページの書類で済むことが多い。それだけでこの節税が使えるのに、「まだ作っていない」という会社が驚くほど多いのです。
4位:社宅を使わない「家賃の丸損」
役員や社員が賃貸物件に住んでいる場合、会社が社宅として契約することで、家賃の大部分を経費にできます。
国税庁が定める「賃貸料相当額」に基づいた金額を本人から徴収すれば、それ以上の家賃差額はすべて会社の損金。かつ、受け取った側にも課税されません。月の家賃が20万円の物件なら、場合によっては15〜17万円が会社負担分として経費になります。
ただし、役員社宅と従業員社宅では計算方法が異なります。導入前に税理士と一緒に試算してから進めてください。
3位:交際費の「1万円ルール」を知らないまま
2024年4月に、交際費の飲食費ルールが改正されました。
これまでは「1人あたり5,000円以下の飲食費は交際費に該当しない」という基準でしたが、2024年4月以降は1人あたり1万円以下に引き上げられています。これまで「少し高い」と思って交際費計上をためらっていた飲み会が、条件を満たせば全額損金算入できるようになったのです。
古いルールのまま運用している会社では、経費にできたはずの飲食代を取りこぼしています。顧問税理士にも「2024年4月以降の処理を見直してほしい」と一声かけてみてください。年間で数十万円単位の差が出ることもあります。
2位:30万円未満の備品を「普通に減価償却」している
中小企業には「少額減価償却資産の特例」という強力な制度があります。
本来、パソコンや機械設備などは耐用年数に応じて数年かけて経費化します。しかし、この特例を使えば、1点30万円未満の資産なら購入した年にまるごと経費に落とせます。年間の上限は300万円分。青色申告をしている中小企業であれば、現行では2026年3月末まで適用できます。
たとえば、年度末に20万円のノートPCを10台購入したとします。通常なら数年に分けて減価償却するところを、200万円まるごとその期の損金にできる。これを知らずに通常償却している社長は、毎年かなりの税額を余計に払っていることになります。
1位:賃上げ促進税制——ここが最大の見逃しポイント
最も「使えるのに使われていない」制度がこれです。
賃上げ促進税制は、従業員の給与を一定額以上増やすと、増加額の一部を法人税から直接差し引ける制度です。所得控除と違い「税額控除」なので、節税効果が桁違いに大きい。
中小企業の場合、前年比1.5%以上の賃上げをすると、増加額の30%が法人税額から控除されます。さらに教育訓練費などの要件を満たすと、最大45%まで控除率が上がります。給与総額を年間100万円増やした場合、最大45万円が法人税から直接減額される可能性があるのです。
賃上げはどのみち採用・定着のためにやるべきこと。どうせやるなら、この制度と組み合わせて最大限に節税するのが賢い選択です。ただし適用要件と計算方法は細かく、毎年改正があります。必ず顧問税理士と確認しながら進めてください。
5つ並べてみると、いずれも「知っているかどうか」だけの差です。特別な資産運用も複雑なスキームも不要。制度を正しく使うだけで、年間300万円近い差が生まれることも珍しくありません。
まずは顧問税理士に「今期、賃上げ促進税制と少額減価償却特例は使えますか?旅費規程も整備したいのですが」と一言聞いてみてください。その一言が、今期の税額を大きく変えるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。