先日、ある社長からこんな話を聞きました。年商3億円、従業員20名ほどの製造業を営む田中社長。決算が終わり、税理士から申告書が届いた。「今年も無事に終わった」——そう安心していたころ、たまたま別の税理士と話す機会があったそうです。
その席で指摘されたのが、たった3つの話。聞き終えた田中社長は、思わず絶句したと言います。「それ、うちの税理士には一度も言われたことがなかった」と。
見逃していた3つの節税手法
指摘されたのは、①短期前払費用の活用、②出張日当規程の整備、③役員社宅の導入、この3点でした。
どれも特殊なスキームではありません。中小企業の経営者なら、どの会社でも使える基本的な手法です。ただ、「知っているか、知らないか」——ここで大きな差が生まれます。
実効税率34%で試算すると、年400万円の差
この3点を活用するかしないかで、1期あたり約400万円の差が出ます。
「たった3つで400万円?」と思われるかもしれません。でも、税金は課税所得に対して割合でかかります。年商3億円規模の会社なら、適切な経費の積み上げでこれくらいの差が出ることは珍しくありません。
そして怖いのは、1期だけで終わらないことです。3年続ければ1,200万円。5年続ければ2,000万円。手元に残るはずだったお金が、毎年静かに消えていく計算になります。しかも、本人は「ちゃんと申告している」という安心感の中で。
なぜ顧問税理士は指摘しないのか
「ちゃんと税理士に頼んでいるのに、なぜ教えてもらえないのか」——そう思う方もいるでしょう。
理由はシンプルで、申告業務と節税提案は別の仕事だからです。決算書を作って申告書を提出するのが税理士の基本業務。でも「もっと税金を減らすにはどうすればいいか」をプロアクティブに提案するには、別の視点と動機が必要です。
田中社長の顧問税理士が悪かったわけではありません。「聞かれなければ言わない」というスタンスの税理士は多く、節税提案を期待するなら、こちらから話題を振ることが必要なのが現実です。「うちではどんな手法が使えますか?」と一度聞いてみるだけで、会話は大きく変わります。
3つの手法を簡単に解説
① 短期前払費用の活用
翌期に対応する費用を今期中に一括払いすることで、今期の経費として計上できる税務上のルールです。家賃や保険料など、決算前に1年分を前払いすれば、その分だけ今期の利益を圧縮できます。一度仕組みを整えれば、毎期継続して使い続けられる手法です。
② 出張日当規程の整備
役員・社員が出張した際に支払う日当を、非課税の範囲で支給するルールです。規程を整備し、適切な金額を設定することで、実質的な手取りを増やしながら会社の経費にもなります。旅費規程さえ作れば使える手法ですが、「規程がない」という会社が意外と多い。整備コストはほぼゼロで、導入のハードルは3つの中でいちばん低いと言えます。
③ 役員社宅の導入
会社が物件を借りて役員に転貸する形をとることで、家賃の大部分を法人の経費にできます。役員が自分で賃貸契約を結ぶより、可処分所得を大幅に増やせる手法です。要件の設定を誤ると課税リスクが生じることもあるため、導入時は必ず税理士に確認を取ってください。
気づいた今がいちばん早い
田中社長は「もっと早く知りたかった」と言っていましたが、気づいた今がいちばん早いタイミングです。
過去の分については、払い過ぎた税金を取り戻す「更正の請求」が使えるケースもあります(原則として5年以内)。今期からの適用はもちろん、状況によっては過去の期についても遡れる可能性があります。決算が終わった後でも、諦めずに一度確認してみてください。
まず今の顧問税理士に「うちでは短期前払費用や役員社宅は使えますか?」と一言聞いてみるところから始めてみてください。それだけで年間数百万円の差が生まれることは、決して珍しくありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。