先日、製造業を営む社長から、こんな一言をもらいました。「役員報酬を上げたいんだけど、どうせ税金と社会保険料でごっそり持っていかれるでしょ?」と。
たしかに、その感覚は正しい。月10万円を役員報酬に上乗せしようとすると、所得税・住民税・社会保険料が重なって、手元に残るのは6〜7万円ほどです。せっかく増やしても、感覚ほどには豊かにならない。
そこで私が必ず確認するのが、「旅費規程、ありますか?」という質問です。
旅費規程がない会社は、静かに損している
旅費規程とは、役員・社員の出張に支払う費用の基準を定めた社内規程のことです。日当・宿泊費・交通費の上限額などを明文化しておくことで、会社の経費として計上できるだけでなく、受け取る側にとっても非課税所得になります。
「非課税」という点がポイントです。
給与・賞与として受け取ると所得税がかかります。でも旅費規程に基づく日当は、適切な金額であれば非課税。社会保険料の対象にもなりません。会社の損金にもなる。支払う側も受け取る側も両方トクするという、二重の節税効果があります。
年60万円が丸ごと手元に残る
具体的な数字で考えてみましょう。
役員が月に20日出張するケースで、日当を1日2,500円と設定したとします。月5万円、年間に直すと60万円です。
これを役員報酬の増額で実現しようとすると、どうなるか。所得税・住民税・社会保険料の合算で、手取りに残るのは60万円の70〜75%ほど。つまり42〜45万円前後になってしまいます。
ところが、旅費規程で同じ60万円を日当として受け取れば、全額が手元に残ります。差額は15〜18万円。規程を整備するだけで、これだけの差が出るのです。
「役員報酬を上げるより旅費規程を作るほうが先だ」とよく言われる理由が、ここにあります。
金額設定を間違えると逆に危険
ただし、注意点もあります。
日当の金額が不合理に高いと、税務調査で否認されるリスクがあります。「同業他社の相場と比べて著しく高い」「実態を伴わない出張に日当を支払っている」といったケースは要注意です。
適正な日当の水準は、業種・役職・移動距離などによって変わります。大企業の規程をそのままコピーするのもNGです。自社の実態に見合った金額を、根拠をもって設定することが求められます。
あわせて、出張報告書や交通費精算の記録も整備しておくことが大切です。「規程はあるが実態が伴っていない」という状態は、節税どころかリスクになります。
今期中に整備しておく価値がある
旅費規程の節税効果は、規程を作成した月から生じます。来期まで待つのではなく、今期中に整備しておくほうが、より多くの恩恵を受けられます。
特に決算が近い会社は、今すぐ税理士に相談してみてください。旅費規程の作成自体はそれほど複雑ではないものの、自社に適した金額設定には専門家のアドバイスが欠かせません。
まだ旅費規程を作っていないなら、今期中に整備しておくのがおすすめです。コストゼロで実質的な手取りを増やせる、数少ない合法的な節税策のひとつです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。