先日、知人の税理士からこんな話を聞きました。
「顧問先の社長さんが、上半期の業績が想定以上に良かったので、10月から自分の役員報酬を月25万円上げたんです。決算後に税務調査が入って……結果的に90万円近く余計に税金を払うことになりました」
その社長、悪いことをしたわけではありません。業績が上がったから報酬を増やしたい。至極まっとうな考えです。ただ、変えるタイミングが間違っていた。それだけで、90万円が消えました。
役員報酬が経費になるための大前提
法人が役員報酬を経費(損金)として認めてもらうには、「定期同額給与」というルールを守る必要があります。
ひと言でいえば、毎月同じ金額を払い続けることです。
なぜこんなルールがあるのか。役員報酬は、一般の従業員給与と違って、会社と役員の間で自由に決められます。つまり「今月は利益が出そうだから報酬を上げて法人税を圧縮しよう」という操作が、原理上は可能なのです。それを防ぐために、税法は「毎月同額でなければ損金として認めない」と定めています。
変更できるのは「期首から3ヶ月以内」だけ
もちろん、報酬をまったく変えられないわけではありません。ただし、変更できるタイミングは法律で明確に決まっています。
原則として、事業年度が始まってから3ヶ月以内に変更を決議しなければなりません。
3月決算の会社であれば4月・5月・6月の株主総会や取締役会が変更のチャンスです。その窓口を過ぎると、翌期まで待つしかありません。
期中に増やすと何が起きるのか
冒頭の社長の話に戻りましょう。10月から月25万円の増額を行い、それを翌年3月の決算まで続けたとします。6ヶ月で150万円の増額になります。
この増額分は、税務上「役員賞与」として扱われます。そして役員賞与は、原則として全額が損金不算入です。つまり、150万円がまるまる経費として認められません。
仮に4月(期首)から変更していたとすれば、12ヶ月で300万円が損金不算入になります。実効税率を30%で計算すると、約90万円の法人税が余計にかかる計算になります。報酬を上げたにもかかわらず、会社の手元から税金だけが増えていく。なんとも理不尽な話ですが、これが現実のルールです。
「業績が良かったから」は税務上の理由にならない
「でも、ちゃんと理由があって増やしたのに」と思う方もいるかもしれません。
残念ながら、業績好調を理由にした期中変更は認められません。税法が例外として認めているのは、経営状況が著しく悪化した場合(いわゆる業績悪化改定事由)に限られます。「悪化したから下げる」は認められても、「良くなったから上げる」は認められないのです。
これを知らずに期中で増額してしまうと、増えた分がまるごと損金不算入になります。会社としての節税効果はゼロどころかマイナスです。
業績連動で報酬を増やしたいなら「事前確定届出給与」
「期首以外では絶対に無理なのか」というと、一つだけ選択肢があります。事前確定届出給与という制度です。
あらかじめ「○月○日に○○円を支給する」と税務署に届け出ておけば、その通りに支払った場合に限り損金算入が認められます。業績が上向きの年に追加で役員へ報酬を払いたいときは、この仕組みを期首に設計しておくのが正攻法です。ただし事前の届出が絶対条件で、後から変更することはできません。
役員報酬の設計は「期が始まる前」に終わらせる
役員報酬は、一度決めたら原則として一年間動かせない、会社経営における重要な意思決定です。
期中に「増やしたい」と思ったときは、その気持ちをいったん翌期に持ち越す。来期の業績見通しを立てた上で、期首3ヶ月以内の株主総会で適切な金額を設定する。この繰り返しが、余計な税負担を防ぐ最善策です。
決算が近づいてから慌てて動くのではなく、新しい期が始まる前に税理士と一度「役員報酬いくらにするか」をじっくり話し合っておくことを強くおすすめします。タイミングを間違えるだけで、何十万円もの差が生まれます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。