先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「売上が好調だったから、自分の報酬を期の途中で月50万円上げたんです。それが全額損金にならないって、顧問税理士に言われて……」

年商3億円、創業10年の卸売業を営むその社長は、善意で会社の業績を自分の報酬に反映させただけでした。でも結果は、増額した分の600万円超が課税対象になるという、痛い追徴課税。節税どころか、完全に逆効果になってしまったんです。

今日は、この「定期同額給与」のルールについて、できるだけわかりやすく解説していきます。知っているだけで、数百万円の損を防げる話です。

役員報酬は「毎月同額」でないと損金にならない

法人税法では、役員報酬を損金(経費)として認めてもらうために、いくつかのルールが定められています。その代表格が「定期同額給与」です。

読んで字のごとく、毎月定期的に、同じ金額を支払う役員報酬のこと。これが守られていれば損金として認められますが、途中で金額が変わると、変わった部分が損金不算入になってしまいます。

「えっ、それだけ?」と思うかもしれませんが、この「途中で変わった」という定義が思いのほか厳しいんです。

変更できるのは「期首から3ヶ月以内」だけ

役員報酬の金額を変えていいタイミングは、原則として事業年度の開始から3ヶ月以内に限られています。

たとえば4月決算の会社なら、5月・6月・7月の株主総会や取締役会で変更を決議し、8月分の報酬から新しい金額を適用する、というイメージです。

この3ヶ月を過ぎてから「やっぱり上げたい」「ちょっと下げたい」と変更してしまうと、変更後の金額との差額が損金として認められなくなります。

月100万円の報酬を期首から8ヶ月目に月150万円に上げたとすると、残り5ヶ月分の差額50万円×5ヶ月=250万円が損金不算入になる、ということです。これが年間を通じると、かなり大きな金額になります。

「業績が悪化した」ならOK、でも証拠が必要

唯一の例外として、期中でも報酬を減額できるケースがあります。それが「業績悪化改定事由」に該当する場合です。

具体的には、会社の経営状況が著しく悪化し、株主や取引先・金融機関などとの関係上、やむを得ず減額しなければならない状況を指します。

ただし、「今期ちょっと売上が落ちたから」という程度では認められません。税務署は「本当に業績悪化で減額したのか」を厳しく見てきます。取締役会の議事録や、銀行からの融資条件の変更など、客観的な証拠を残しておくことが不可欠です。

また、増額方向への変更はこの例外に該当しません。業績が好調でも、期中に報酬を上げることは認められていないので注意が必要です。

「減額しただけ」でも大きなダメージになる

冒頭の事例とは逆に、「節税のために報酬を下げた」ケースも落とし穴があります。

月100万円の報酬を、期の途中から月50万円に下げたとします。期の後半6ヶ月間、差額は毎月50万円。合計600万円が損金不算入になってしまいます。

「下げたんだから税負担も減るんじゃないの?」と思いがちですが、税務上の扱いは真逆です。定期同額給与のルールを外れた変更は、増額でも減額でも、差額部分に法人税がかかってくる。これが多くの社長が見落としているポイントです。

「社会保険料を減らしたい」という理由も要注意

近年、社会保険料の節約を目的として役員報酬を期中に操作しようとするケースも見受けられます。

たとえば「月80万円を月40万円に下げて、社会保険料の負担を軽くしたい」というご相談です。気持ちはわかりますが、これは定期同額給与のルール違反になるリスクが高く、社会保険料の節約どころか法人税の追徴課税というダブルパンチになりかねません。

社会保険料の適正化を検討するなら、期首のタイミングで報酬体系全体を見直すか、別の仕組み(業績連動給与など)を活用するほうが安全です。

変更したいなら、必ず「期首前」に動く

役員報酬の変更で失敗しないために、最も大切なことは一つです。

変更を思い立ったら、期が変わる前に動く。

「来期から上げたい」「来期は少し下げようか」という話は、決算が近づいたタイミングで顧問税理士と相談し、来期の期首から3ヶ月以内に正式な決議を行う。このフローを習慣にするだけで、今日紹介したリスクはほぼ回避できます。

「役員報酬くらい自分で決められる」という感覚は正しいのですが、変更のタイミングだけは税務ルールに縛られているという認識をぜひ持っておいてください。

まだ役員報酬の変更タイミングを感覚で決めているなら、今期の決算前にぜひ顧問税理士に確認の場を設けることをおすすめします。話すのは30分でも、守れる税金は数百万円になることがあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。