先日、製造業を経営している社長からこんな話を聞きました。
「決算の1ヶ月前に、税理士から電話が来たんです。『今期、利益が当初予想より600万円多く出ています』って。正直、頭が真っ白になりました」
節税の準備をまったくしていなかったわけではない。でも、600万円の誤差はさすがに想定外だった。このまま放置すれば、そのうち200万円前後が税金として消えていく計算になります。
そこから税理士と相談し、Aさんが選んだのが「決算賞与」という手法でした。結果として、約200万円の節税に成功しています。
決算賞与が節税になる仕組み
中小企業の法人実効税率は、おおよそ30〜35%前後です。利益が600万円残れば、単純計算で約200万円が税金として持っていかれます。
ここで「従業員への賞与」という形で600万円を経費に計上できれば、課税所得をその分だけ圧縮できます。設備投資や消耗品の購入と異なり、従業員に直接還元できる点もメリットです。モチベーション向上という副次的な効果も見込めます。
ただし、決算賞与には厳格な要件があります。この要件を満たさないと、税務調査で「損金不算入」とされてしまいます。
押さえるべき3つの要件
Aさんが実行した手順を整理すると、次の3ステップになります。
① 全従業員に書面で支給額を通知する
「〇〇さんへ、今期の決算賞与として△△円を支給します」という内容を、一人ひとりに書面で渡します。口頭では認められません。また「一部の社員だけ書面を出した」という状態もNGです。全員への書面通知が絶対条件です。
② 決算日の翌日から1ヶ月以内に実際に支払う
書面で通知した金額を、決算日の翌月末までに実際に振り込む必要があります。この期限を1日でも過ぎると、書面があっても損金として認められません。Aさんはカレンダーに振込期限を書き込み、経理担当者と二重確認を徹底したそうです。
③ 当期の帳簿に「未払賞与」として計上する
決算日時点でまだ支払っていない場合でも、その期の費用として未払計上しておく必要があります。「支払ってから経費にすればいい」と思っていると、翌期の経費になってしまい、今期の節税効果がゼロになります。ここが最も見落とされやすいポイントです。
1つでも欠けると「損金アウト」
3つの要件は、どれか1つでも欠けると損金として認められません。
よくある失敗例を挙げると、「主要な幹部だけ書面を出した」「LINEやメールで通知した」「支払いが1ヶ月を3日超えた」などがあります。いずれも、書類や金額の準備をどれだけ丁夫にしていても、税務上は認められません。
Aさんのケースでは、通知のフォーマット確認から振込スケジュールの管理まで、税理士と細かく連絡を取り合いながら進めたことが成功のポイントでした。自己流でやろうとすると、見えないところで要件を外していることがあります。
決算直前でも、まだ間に合う可能性がある
「決算が迫っている今更、何もできない」と感じている社長は少なくありません。でも実際には、30日前でも動ける選択肢が残っていることがあります。
決算賞与はそのひとつです。もし今期の利益が膨らんでいる感触があるなら、まず税理士に現状の着地見込みを確認してみてください。選択肢が残っているうちに動くのと、期日を過ぎてから後悔するのとでは、数百万円単位で結果が変わります。
手元の利益をどこに使うか。従業員への還元という形で、節税と組織への投資を両立する。決算賞与は、その両方を一度に実現できる数少ない手段の一つです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。