先日、3月決算を終えたばかりの社長からこんな連絡がありました。

「申告書も出したし、これでひと息つけますね」

その言葉に、私は少し複雑な気持ちになりました。申告が終わった瞬間こそ、実は「見えないリスク」が始まるタイミングだからです。

申告後も、税務署は5年間動いている

多くの社長が誤解しているのが、「申告書を出せば終わり」という感覚です。

実際は、税務署には申告後最大5年間、過去の申告内容を遡って調査する権限があります。悪質と判断されれば7年。申告して一安心、ではなく、申告後こそが「リスクの本番」と言っても過言ではありません。

3月決算の会社が特に気をつけるべき落とし穴は2つあります。どちらも見落とすと100万円単位の追徴税額が発生するケースがあり、「知らなかった」では済まされません。

役員報酬を増額するなら、期首3か月が勝負

一つ目は、役員報酬の改定タイミングです。

法人が役員報酬を損金(経費)として計上するためには、原則として期首から3か月以内に改定を終えなければなりません。3月決算の会社であれば、4月・5月・6月の株主総会または取締役会で金額を決定し、変更する必要があります。

これを知らずに、たとえば10月に「業績が好調だから社長の報酬を上げよう」と決めてしまうと、増額分が全額損金不算入になります。

増額が月25万円なら、年間で300万円が経費として認められなくなります。法人税・地方税の実効税率を約33%で計算すると、追徴税額は約100万円前後。決して珍しくない金額です。

「来期から直せばいい」では済まないのが怖いところです。期中の変更が認められるのは業績悪化など例外的な要件を満たした場合に限られ、要件を満たさなければ増額分が遡って否認されます。役員報酬を変更する予定があるなら、新しい期が始まったらすぐに動くことを習慣にしてください。

接待の領収書、5項目そろっていますか?

二つ目は、交際費の記載不備です。

会食や接待の費用を経費にするためには、領収書や帳簿に次の5つの情報を記録しなければなりません。

  • 飲食した年月日
  • 参加者の氏名・会社名・役職などの関係
  • 参加人数
  • 金額と店名
  • 飲食店の所在地(住所)

この5項目のうち、1つでも欠けていると、その飲食費は全額損金不算入です。たとえ50万円の接待費でも、「参加者の氏名」が抜けていれば全額が経費として認められません。

よくある落とし穴は、「○○社」とだけ書いて担当者名を省いてしまうケース。または「新橋の焼鳥屋」と書いて住所を書かないケース。税務調査では必ずと言っていいほど指摘されるポイントです。

経理担当者に任せきりにしている社長は、一度だけ確認してみてください。「領収書に5項目ちゃんと書いてある?」と聞くだけで、大きなリスクを未然に防げます。

申告後こそ、次の準備を始める

申告が終わった直後というのは、実は税務的な整備を進める絶好のタイミングです。

今期の決算を振り返りながら、役員報酬の改定スケジュールを確認し、接待交際費の記録ルールを経理部門と見直す。これだけで、5年後に調査が来ても慌てない体制が整います。

「決算が終わったらひと息」ではなく、「決算が終わったら次の準備を始める」。この習慣が、長期的に会社を守ることになります。

今期の申告内容に少しでも不安があれば、早めに顧問税理士へ相談することをおすすめします。追徴は防げても、一度支払ったペナルティを取り戻すことはできませんから。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。