先日、年商7億円の部品メーカーを経営する60代の社長から、こんな相談を受けました。「息子は東京の大手に就職していて継ぐ気はない。このまま廃業するしかないのか」と。
業績は悪くない。むしろ直近3期は増収増益。それでも「次の手」が見えないまま、時間だけが過ぎていく。この社長のような状況は、今の日本で珍しくありません。
中小企業庁の調査では、今後10年で70万社超が後継者不在を理由に廃業リスクにさらされているとされています。その多くが、実は黒字経営のまま消えていく「もったいない廃業」です。
黒字経営ほど、承継の税負担が重くなる皮肉
事業承継を難しくしている大きな障壁のひとつが、自社株にかかる税金です。
会社の業績が良ければ良いほど、自社株の評価額は上がります。評価額が3億円を超えるようなケースでは、何も対策せずに相続が発生した場合、相続税だけで1億円を超えることもあります。
後継者に「会社は渡したいが、税金を払う現金がない」という問題が起き、結果として承継を断念せざるを得ない。黒字経営であることが、皮肉にも廃業の原因になっているわけです。
「事業承継税制の特例措置」が使える最後のチャンス
この問題に対応するために設けられたのが、事業承継税制の特例措置です。
簡単に言えば、後継者が相続または贈与で取得した自社株にかかる相続税・贈与税の納税を、最大100%猶予してもらえる制度です。通常の制度(一般措置)と比べて、適用できる株式の割合も猶予される割合も大幅に拡充されています。
ただし、この特例措置には明確な期限があります。
- 贈与・相続の実行期限:2027年12月31日
- 特例承継計画の提出期限:2028年3月31日
2027年末までに実際の承継(株式の贈与など)を完了させる必要があり、そのためには事前に計画書を都道府県に提出しなければなりません。今日から数えると、残り約2年です。
「まだ早い」が最大のリスク
「うちはまだ数年先の話だから」——この考え方が、最も危険です。
特例措置を活用するには、段階を踏んだ準備が必要で、最低でも6ヶ月から1年はかかります。後継者の選定、自社株の評価、必要に応じた組織再編(ホールディングス化など)、そして税理士・弁護士・M&A仲介との連携を経て、はじめて計画書の提出にたどり着けます。
特に自社株の評価額を事前に下げる対策は、タイミングが命です。業績や純資産の状況によって取れる手法が変わり、「今年やるか来年やるか」で税負担が数千万円単位で変わることもあります。
「来年から動こう」では間に合わない可能性が、十分にあります。
まず自社株の評価額を把握することから
何から始めればいいかわからない、という社長にはまず、現時点での自社株の評価額を試算してもらうことをおすすめします。
この金額を把握するだけで、「急いで動く必要があるのか」「あるいは株価を下げてから承継した方が有利なのか」という判断軸が見えてきます。顧問税理士に頼めば試算してもらえますし、事業承継を専門とする税理士に相談するという選択肢もあります。
後継者が「子ども」である必要はありません。役員や従業員への承継(MBO)も、外部への売却(M&A)も、特例措置の対象になり得ます。選択肢は思っているより広い。ただし、その選択肢が広いのは「今のうちだけ」です。
2027年末という期限は、今動けば確実に間に合います。でも、動かなければ確実に消える制度です。まだ顧問税理士と事業承継について真剣に話したことがないなら、今期中に一度、そのテーマだけで時間を取ることを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。