先日、年商2億円の建設会社を経営する田中社長から、こんな話を聞きました。「10年以上、税理士に任せっきりで、何の問題もないと思っていたんです。でも、節税の専門家に改めて見てもらったら……毎年80万円近く、取り戻せるお金があったと分かって」
社長は苦笑いしながらそう言っていました。損していた年数は10年。単純計算で800万円以上のお金が、知らないまま消えていたことになります。
「個人払い」のままにしていた経費が、年240万円あった
田中社長が見落としていたのは、難しい節税スキームでもグレーな裏技でもありません。「法人の事業に関係する費用は、法人の経費にできる」という、ごく基本的なルールです。
問題は、それが「個人払い」のままになっていたこと。
毎月の自宅兼事務所のインターネット代、経営を学ぶために買い続けてきたビジネス書、年に一度の役員向け人間ドック、取引先の社長が亡くなったときに包んだ香典……。これらはすべて、会社の事業に紐づく支出です。にもかかわらず、社長個人のお財布から払い続けていた。
「税理士に聞けばよかったんですが、こういう細かいことを聞くのが何となく申し訳なくて」と田中社長は言います。その一言の遠慮が、10年分の損につながっていました。
意外と「あるある」な見落とし経費
田中社長のケースで積み上がった10項目には、多くの社長が思い当たるものが並んでいました。
自宅の一室を社長室として使っているなら、その按分分の家賃・光熱費・インターネット代は法人経費にできます。仕事で使うスマートフォンの通信費も同様です。業務使用割合を合理的に説明できれば、按分処理が認められます。
経営書籍や業界紙・新聞も対象です。「自己啓発だから個人で」と思っている社長は多いのですが、事業判断に使う情報収集は立派な経費です。毎月2〜3冊買うだけで、年間で数万円の差になります。
役員の人間ドックも要チェックです。従業員と同じ基準で実施するなら、役員分も法人経費として処理できます。健康管理は会社の業務遂行能力の維持に直結するという考え方です。
取引先への慶弔費(香典・祝儀)は、交際費として処理できる場合があります。付き合いの長い建設業では、こういった出費が年間でかなりの金額になります。田中社長は10年分すべて、自腹で払っていたと言っていました。
セミナー参加費、業界団体の会費、名刺入れや手帳といったビジネス用品も「なんとなく個人で払ってしまう」筆頭候補です。これらをひとつひとつ拾い上げていくと、積み上がった金額に驚くことがあります。
240万円を経費計上すると、税負担が80万円減る
田中社長の場合、これら10項目を整理したところ、年間で約240万円の処理漏れがあることが分かりました。
240万円を法人の費用として計上すれば、課税所得がその分減ります。法人実効税率が約33%とすると、240万円×33%≒約80万円の税負担が軽くなる計算です。
「ただ経費として処理するだけで、毎年80万円違う」——言葉にすると単純ですが、当事者には相当な衝撃だったそうです。「知らないだけで損してた」という田中社長の一言が、この感覚を正確に表しています。
税理士に「任せきり」では気づけない理由
少し正直に言うと、顧問税理士が悪いわけではないケースも多いです。
税理士は、社長が「これは経費ですか?」と聞いてきた支出については判断してくれます。でも、社長が「細かいことを聞くのも申し訳ない」と思って黙って個人払いにしている支出は、そもそも把握できません。
経費の洗い出しは、社長側から情報を出さないと始まりません。「先生、私が個人で払っているものを一回全部見てもらえますか」という一言が、年80万円の差になることがあります。また、節税提案を積極的にしてくれる税理士かどうかも正直なところ関係します。記帳・申告を正確にこなすことと、節税を提案してくれることは別のスキルだからです。
今すぐ、明細を開いてみてください
まず、ここ1〜2ヶ月の個人支出の明細を見返してみてください。クレジットカードの明細を開いて、「これ、仕事に関係してるな」という項目を拾い出すだけです。
そのリストを顧問税理士に見せて、「どれが法人経費にできますか?」と聞く。それだけで、田中社長と同じような発見があるかもしれません。
決算が近い社長は特に急いでください。今期の経費にするには、今期中に処理する必要があります。期をまたいでから遡れないケースもあるため、思い立ったら早めに動くことをおすすめします。経費の棚卸しを一度もしたことがないなら、今年こそやってみる価値は十分あります。年80万円は、特別な会社だけの話ではないはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。