先日、年商3億円の建設会社を経営する社長から、こんな話を聞きました。
「うちは毎年、役員報酬を据え置きにしています。社保が上がるし、利益は法人に残しておくほうがいいかなって」
この発言、税務的に見るといくつかのボタンが掛け違っています。悪気はまったくない。でも、知らないまま据え置きを続けると、実は手取りが減り続けているケースも少なくないのです。
今回は、役員報酬を上げない社長に共通する「3つの誤解」をお伝えします。
3位:「社保が増えるから損」は半分だけ正しい
役員報酬を上げると、社会保険料の会社負担分が増える——そう聞くと、上げない理由に聞こえます。でも、少し立ち止まって考えてみましょう。
会社が負担する社会保険料は、全額が損金算入できます。つまり、法人税の計算上、そのまま経費として引けるお金なのです。
たとえば月額報酬を30万円から50万円に引き上げると、会社の社保負担は月1.5〜2万円ほど増えます。一見コストに見えますが、この増加分はそのまま法人の課税所得を下げてくれます。さらに役員本人の手取りの変化も合わせて試算すると、「上げた方が、会社と個人のトータルで有利」というケースは思いのほか多い。
「社保が増えるから損」は、半分は正しく、半分は計算不足から生まれた誤解です。
2位:「期中は1円も変えられない」は正確ではない
役員報酬には定時改定のルールがあり、原則として期の途中で変更すると損金算入できません。このルールを知っている社長は多い。
ただし、例外があります。
業績が「著しく悪化した」場合に限り、期中でも減額改定が認められています。コロナ禍のように売上が急減したとき、役員報酬を下げて会社の資金繰りを守れるのは、このルールがあるからです。
注意が必要なのは、あくまで「減額」のみが例外だという点。期中の増額は原則として認められません。「調子がよくなってきたから少し上げよう」という期末の駆け込み増額は、損金に算入できないリスクがあります。
「変えられない」のではなく、「増やす方向には動かせない」という理解が正確です。
1位:「来期また考えよう」が一番もったいない
これが一番多く、一番もったいない誤解です。
役員報酬を改定できる窓は、期首から3ヶ月以内が原則。この窓は年に1回しか来ません。
3月決算の会社なら、4月・5月・6月が改定の窓。ここを逃すと、翌年6月末まで金額は固定されます。つまり、12ヶ月間まるごと「最適ではない報酬設定」で走り続けることになる。
「来期また考えよう」と後回しにした結果、気づけば3年・5年と据え置きが続いている社長は珍しくありません。その間、会社には利益が積み上がり、法人税がかかり続けます。役員報酬を適切に設計していれば分散できた税負担が、先送りによって静かに消えていったのです。
改定の窓は今年も必ずやってくる
役員報酬の設計は、「なんとなく据え置き」が一番もったいない意思決定です。社保の試算、業績見通し、個人の生活費、将来の退職金設計——これらをセットで考えると、最適な金額は意外なほど変わります。
もし今期の改定窓(期首3ヶ月以内)がまだ来ていないなら、今すぐ顧問税理士に相談することをおすすめします。窓が閉まってからでは、残念ながらどうにもなりません。
今期の判断が、来期の手取りを決めます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。