先日、都内で不動産業を営む社長からこんな連絡が届きました。「今年も役員報酬は去年と同じで大丈夫ですよね?」——4月の初旬のことでした。
この一言が少し心配でした。なぜなら、役員報酬の見直しは「あとでやろう」が絶対に通用しない、年に一度きりのタイミングが今まさに訪れているからです。
年に一度しか変えられない、という厳しい現実
税法上、役員報酬の変更が損金として認められるためには、事業年度が始まってから3ヶ月以内に手続きを完了させる必要があります。これは「定期同額給与」のルールによるものです。
3月決算の会社であれば4月・5月・6月の3ヶ月、4月決算なら5月・6月・7月——この窓が閉まると、たとえ業績が大きく変わっても、期中の変更は原則として損金不算入になってしまいます。
「また来年でいいか」は、実質的に2年間放置を意味します。
なぜ年間500万円もの差が生まれるのか
年収1,000万円の社長が報酬設定を最適化することで、所得税・社会保険料の合計が年間200万〜500万円変わるケースがある——これは誇張ではありません。
所得税の観点では、役員報酬は給与所得として課税されるため、給与所得控除が使えます。ただし、あまり高く設定しすぎると累進課税の影響が強くなり、手取りが増えにくくなります。
社会保険の観点では、興味深い構造があります。厚生年金には「標準報酬月額」という計算基準があり、現在の上限は月額65万円(年収換算で約780万円相当)です。この水準を超えると、それ以上いくら報酬を引き上げても社会保険料は増えません。
つまり、月額報酬が100万円でも65万円でも、厚生年金の保険料は変わらない。それなら、差額の部分を法人に留保して退職金の原資にするか、配当で受け取るかという選択肢が生まれてきます。この「頭打ちの構造」を知っているかどうかが、年間数百万円の差になるのです。
「去年と同じ」が最悪の一手になる理由
昨年と状況が変わっていなければ、同じで問題ない——そう思いたいのはわかります。でも実際には、意外と多くのことが変わっています。
今期の見込み利益は増えたか減ったか。配偶者がパートを始めたか、辞めたか。子どもが独立して扶養から外れたか。自社の株価評価に影響する決算内容は変わったか。
こうした個人・法人の両面の変化を毎年正確に把握しながら、最適な役員報酬を自力で導き出すのは、かなり難しい作業です。だからこそ、顧問税理士との年1回のこの打ち合わせが重要になります。
今すぐ顧問税理士に伝えるべきこと
「いくらにしますか?」という問いかけに対して、なんとなく去年と同じ金額を答えていませんか?
もし顧問税理士と具体的なシミュレーションをしたことがないなら、今期は「役員報酬を何パターンかシミュレーションしてほしい」と一言伝えてみてください。確認しておきたいポイントはこの3つです。
- 今期の利益見込みをもとに、法人税の試算はどうなるか
- 社会保険の等級は現状の報酬水準と一致しているか
- 家族への給与・退職金の積立と合わせて、全体で最適化されているか
窓が開いているのは今だけです。3ヶ月を過ぎてから「やっぱり変えたかった」と思っても、もう間に合いません。まだ今期の役員報酬を確認していない社長は、今週中にでも顧問税理士に一本連絡してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。