先日、年商2億円の製造業を経営する50代の社長から、こんな相談がありました。
「毎年1,000万円近い法人税を払っているんですが、法人保険を使えば節税になると聞いて。ただ、2019年に税制が変わってから何が得で何がダメなのか、よくわからなくなってしまって」
この悩み、経営者の方からよく聞きます。法人保険は長年、節税の王道として使われてきましたが、通達改正で仕組みが整理されてから、正確に理解できている方はまだ少ない印象です。今回はその全体像を、実務の感覚でお伝えします。
損金になる割合は「返戻率」で決まる
まず押さえておきたいキーワードが「最高解約返戻率」です。
保険に加入してから解約するまでの間で、最も多く返ってくる時期の返戻率のことです。たとえば100万円払い込んで最大80万円戻ってくるなら、最高解約返戻率は80%になります。
2019年の国税庁通達改正で、この返戻率に応じて損金算入できる割合が明確に定められました。返戻率が70%超〜85%以下の商品であれば、保険料の60%を損金算入できます。
年間200万円の保険料を払っている場合、120万円が経費として計上できる計算です。法人税率を30%として試算すると、年間36万円の節税効果。10年続ければ360万円の差になります。
残り40%は「将来の退職金」に変わる
損金になるのは60%ですが、残りの40%(年80万円)はどこへ行くのでしょうか。
これが保険の積み立て部分に変換され、将来の解約返戻金として育っていきます。「経費にしながら貯められる」と言われる理由はここにあります。
多くの経営者が選ぶのは、この積み立てを役員退職金の原資として活用するやり方です。社長が退任するタイミングで保険を解約し、受け取った解約返戻金を退職金として支払う。退職金には「退職所得控除」という大きな控除があるため、給与や配当で受け取るより圧倒的に税負担が軽くなります。
勤続20年の社長なら退職所得控除は800万円、30年なら1,500万円。この枠内に収まれば、課税はほぼゼロです。
「節税」ではなく「繰り延べ」と正確に理解する
一つ、正直にお伝えしておきたいことがあります。
法人保険は「完全な節税」ではありません。正確には「課税の繰り延べ」です。
保険料を損金算入して今の税負担を減らせても、将来解約した際には解約返戻金が法人の益金(収益)として計上されます。そこで課税が発生するため、払う税金の総額がゼロになるわけではない。
では、なぜ活用されるのかというと、「今は利益が多くて税率が高い時期に経費にして、退職時に役員退職金として受け取る」という変換ができるからです。法人税(最大約30%超)ではなく、個人の退職所得課税(分離課税・税率が大幅に低い)に切り替えることで、全体の税負担を下げる設計になっています。時間のズレと受け取り形式の変換、ここが価値の本質です。
商品選びで結果が大きく変わる
法人保険は商品によって、損金割合も返戻率のピーク時期もまったく異なります。
最高解約返戻率が85%を超える商品は損金割合がさらに低くなり、返戻率50%以下の商品は全額損金になる代わりに積み立て効果がほぼない。損金の大きさと積み立て効果はトレードオフの関係にあります。
また、加入時の社長の年齢や退任予定年数によって、返戻率のピークが来るタイミングも変わります。65歳退任予定なのに80歳にピークが来る商品を選んでも意味がない。商品設計と出口戦略をセットで考えないと、保険会社にとって都合のいい提案を受け入れてしまうことになりかねません。
「入口」より「出口」から設計する
法人保険を今から検討するなら、出口戦略から逆算して設計することをおすすめします。
何歳で退任するか、退職金をいくら受け取るか、そのためにいつ解約するか──この順番で考えてから、保険料・商品・返戻率を選ぶ。入口(加入)だけ考えて出口(解約・退職)を後回しにすると、思ったような効果が出ないことがあります。
顧問税理士に「法人保険を使った退職金設計を一緒に考えたい」と相談してみてください。決算前でも相談できますが、余裕があれば1〜2年前から動き始めると選択肢がぐっと広がります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。