先日、60代の製造業オーナーからこんな電話がありました。「子どもは継ぐ気がないし、いい後継者も見つからない。いっそ清算しようと思っているんですが……」
その言葉に、思わずこう聞き返しました。「清算に、いくらかかるか試算してみましたか?」
沈黙の後、「そんなにかかるんですか?」という声が返ってきました。
清算を選ぶ前に、そのコストを把握していますか
「会社を畳む」というと、なんとなく「手続きをして終わり」というイメージを持つ方が多いように感じます。ところが実際は、会社を閉じるためにかなりの費用がかかります。
まず、従業員への退職金。従業員10人規模の会社であれば、退職金の総額が1,000万円を超えることも珍しくありません。長年一緒に働いてくれた方々への責任として、適切な額を用意する必要があります。
次に、弁護士・司法書士・税理士への報酬。清算手続きは法律と税務が複雑に絡み合うため、専門家なしでは進められません。その費用だけで数百万円になるケースもあります。
そして意外と見落とされるのが、清算期間中の法人税。清算には数ヶ月から1年以上かかることがあり、その間も税負担は続きます。
この3つが重なると、従業員10人程度の会社でも合計3,000万円を超えることがあるのです。「清算するのにお金がかかる」という事実は、意外と知られていません。
2027年末に締め切られる特例の存在
実は今、事業承継にはかなり有利な税制が使える時期にあります。事業承継税制の特例措置です。
後継者への株式承継にかかる贈与税・相続税を最大100%猶予できる制度で、要件を満たせば実質的に無税で株式を引き継がせることができます。中小企業のオーナーにとっては、何千万円もの税負担が変わる可能性がある制度です。
問題は、この特例の適用期限が2027年12月末だということ。一見まだ先に見えますが、適用には事前申請や計画書の提出が必要で、準備に相応の時間がかかります。「そろそろ動こうか」と思っているなら、今がギリギリのタイミングと言っても過言ではありません。
後継者がいなくても、選択肢は清算だけじゃない
「うちは子どもも社員も継ぐ意欲がないから関係ない」——そう思った方こそ、もう少し読み続けてください。
後継者が見つからない場合でも、清算しか道がないわけではありません。一つ目は**M&A(第三者への売却)**です。同業他社や異業種の買い手に会社を売ることで、従業員の雇用を守りながら、オーナー自身は対価を受け取れます。近年は中小企業向けのM&A仲介サービスが充実してきており、以前より現実的な選択肢になっています。
もう一つは従業員承継(MBO)。幹部社員やチームが会社を買い取り、事業を継続する形です。「第三者に売る」ことへの抵抗感がある方でも、長年一緒に働いてきた社員への引き継ぎであれば、受け入れやすいケースがあります。
清算を選ぶ前にこうした選択肢を検討することで、会社も従業員も、そしてオーナー自身も守れる可能性が高まります。
「まだ先の話」と思っているうちに期限が来る
税制の特例には必ず期限があります。そして期限が近づくにつれ、税理士や専門家も混み合い、対応が後手に回りやすくなります。
今期の決算が終わってから動こう——そう思っていると、あっという間に2027年末を迎えることになりかねません。後継者問題は感情的に難しいテーマだからこそ、先送りされやすいのです。
動くのが早ければ早いほど、選択肢は広がります。清算を決断する前に、まず一度、事業承継の専門家や税理士に相談してみてください。「後継者がいない」と思っていても、会社の価値を誰かに引き継ぐ道が見つかることは、決して珍しくありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。