先日、知り合いの社長からこんな相談を受けました。
「経理担当に『これは経費になりますか?』と聞くたびに『難しいですね』と返される。でもネットで調べると社長はいろいろ使えると書いてある。どっちが正しいんですか?」
答えは、どちらも正しいんです。経理担当の「難しい」は会社員目線のルールをそのまま当てはめているからで、社長には社長にしか使えない経費の枠が、別の世界に存在します。
会社員が経費にできる範囲の狭さ
サラリーマンが給与から引ける経費は、「給与所得控除」という概念でまるごとカバーされています。年収500万円なら144万円が自動的に控除される仕組みで、個別の実費を上乗せするのはほぼ不可能です。
一応「特定支出控除」という制度はあります。通勤費・研修費・書籍代なども申告できますが、給与所得控除の半分を超えた部分しか認められないという高いハードルがあり、実務上ほとんど活用されていません。
結果として、会社員が実質的に経費化できる項目はごく限られたものになります。
社長が使える経費は「別次元」の話
中小企業の社長は、会社という器を通じることで、まったく異なるルールのもとで動けます。法人が支出した費用は、事業に関連していれば基本的に損金(経費)になります。この「事業との関連性」という基準は、個人が確定申告で使う場合よりもはるかに広く認められているのです。
社長だけが実質的に活用できる経費カテゴリーを挙げると、これだけあります。
- 役員社宅(自宅家賃の一部を会社負担)
- 社用車(購入費・リース料・ガソリン代・駐車場代)
- 出張日当(実費精算とは別に支給できる非課税の手当)
- 研修・セミナー費用(業務関連の書籍代も含む)
- 法人契約の生命保険料(損金算入できるものに限る)
- 接待交際費(法人は一定額まで損金算入可能)
- 健康診断・人間ドック費用
- 福利厚生費(就業規則との連動が必要なものも)
- 通信費・クラウドサービス費
- 自宅兼事務所の家賃(事業使用割合で按分)
- 役員退職金に向けた積立制度
- 海外視察・研修旅行の費用
12種以上のカテゴリーが並びます。会社員には縁のない世界です。
年120万円増やすと手取りはどう変わる?
具体的な数字で考えてみましょう。現状の会社経費を年間120万円増やしたとします。この120万円は会社の利益から差し引かれるので、法人税の課税対象が減ります。実効税率を約30%とすると、税負担が約36万円軽くなります。
月に換算すると3万円の節税です。何もしなければ税金として消えていたお金が、経費化によって手元に残る形になります。
たとえば役員社宅だけでも、家賃20万円の物件を会社が借り上げ、社長本人の負担を5〜7万円程度に設計することが可能です。差額の13〜15万円が会社の経費になる計算で、年間では156〜180万円。この1項目だけでも相当な効果があります。
「それって脱税じゃないか」という心配について
ここで「そんなに経費が使えるなら税務署に何か言われないか」と心配される社長も多いです。
重要なのは、経費として認められるには「事業目的」と「適切な証拠書類」が必要だということです。社用車も実態が完全に私用であれば否認されます。役員社宅も、一定の賃料を社長本人が負担しないと給与課税になります。
「経費にできる可能性がある」と「何でも経費にしていい」は違います。制度の要件を満たした上で使うのが鉄則です。一方、要件を満たしているのに「面倒だから」とスルーしているのも、毎年お金を捨てているのと同じです。
同じ年収なのに、なぜ手取りが違うのか
同じ額面1,000万円の年収でも、「会社員として受け取る」場合と「社長として会社経費を最大活用した上で受け取る」場合とでは、実質的な手取りが大きく変わります。
会社員は給与所得控除の枠内でしか動けません。しかし社長は、会社という仕組みを活用することで経費の幅が最大5倍まで広がります。「社長だから税金が高い」と感じているなら、経費の設計が追いついていない可能性があります。
まだ役員社宅や出張日当規程を整備していないなら、今期中に着手しておくのがおすすめです。決算後では間に合わない制度もありますし、規程の整備は設計から効果が出るまで時間がかかるものもあります。気になる項目からひとつずつ、税理士と一緒に確認してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。