先日、ある経営者からこんな電話がかかってきました。「会社の業績が想定より良くなったので、今月から役員報酬を月20万円上げようと思うんですが、問題ありませんか?」という内容でした。

決算期末は3月。電話があったのは11月。つまり、事業年度がすでに8ヶ月経過していた時期です。

気持ちはわかります。業績が伸びれば、自分の報酬を増やしたいと思うのは当然です。でも私はその場で「残念ながら、今それをやると税金が増えますよ」とお伝えするしかありませんでした。

役員報酬には「変更禁止期間」がある

役員報酬には、法人税法上の「定期同額給与」というルールがあります。毎月まったく同じ金額を支払い続ける役員報酬だけが、損金(経費)として認められるというルールです。

そして、この金額を変更できるのは、事業年度開始後3ヶ月以内という縛りがあります。3月決算の会社なら6月末まで。6月決算なら9月末まで。この期限を過ぎてしまうと、税務署は「その変更は認められません」というスタンスをとります。

なぜこんなルールがあるのか。役員は自分で自分の報酬を決められる立場にあるため、恣意的な利益操作を封じるための設計なのです。「利益が出たタイミングで役員報酬を上げて課税所得を減らす」という行為を防ぐために、変更タイミングが厳しく制限されています。

月20万円の増額が、なぜ54万円の損になるのか

先ほどの社長のケースで計算してみましょう。

月20万円の増額を11月から始めると、残り8ヶ月分の差額は合計160万円になります。この160万円が全額「損金不算入」として扱われます。損金不算入とは、法人税の計算上、160万円がそのまま課税所得に上乗せされてしまうということです。

課税所得が800万円を超える法人の実効税率はおよそ34%。この160万円に34%をかけると、約54万円の追加税負担が発生します。

報酬として160万円が手元に届くのに、そこに54万円の余分な法人税がかかる。こうして見ると、改定タイミングを1つ間違えるだけで、節税効果がゼロになるどころか、むしろ損をする結果になりかねません。

「例外」はあるが、頼りにするのは危険

期中の改定がすべてNGというわけではありません。税法には「業績悪化改定事由」という例外規定があります。

業績が著しく悪化して、役員報酬を減額せざるを得ない状況では、期中でも損金として認められることがあります。また、役職の大幅な変更(専務から代表取締役への就任など)に伴う改定も、条件次第で認められる場合があります。

ただし例外の適用には相応の事実関係と書面での証拠が必要です。増額は基本的に対象外であり、「なんとか理由をつけて期中に増額できないか」と探るより、最初から3ヶ月ルールに合わせた年間設計をするほうが確実で安全です。

決算直後の3ヶ月が「年に一度の窓口」

役員報酬の改定は、決算が終わった直後の3ヶ月以内が唯一の設定タイミングです。この時期に翌期の業績見込みを立てて、報酬額を決める。これを毎年の年間スケジュールに組み込んでおくだけで、余計な税負担を避けられます。

「業績が良くなったら増やせばいい」という発想は一見合理的ですが、税法の観点からは逆効果になります。期初に翌期の業績をある程度見込んで報酬額を設定し、余剰利益は別の方法——倒産防止共済(経営セーフティ共済)、退職金積立、設備投資など——で活用するほうが、トータルの節税効果は高くなります。

決算が終わった直後は何かと慌ただしいタイミングかもしれませんが、役員報酬の見直しは「年に一度しか開かない窓口」です。この窓口を閉め忘れたまま過ごすと、次の機会はまた1年後。今期の決算が終わったら、真っ先に来期の報酬額を確認してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。