先日、顧問先の社長からこんな話を聞きました。「うちの経理担当が『社長は家賃も経費になるんですか?』と驚いていた」と。社員にとって、社長の経費の使い方は別世界に映るようです。
この感覚、実は正しい。社員と社長では、税法上の「経費の扱い」が構造から違うのです。
社員は「実費精算」、社長は「法人負担」という構造の違い
社員が経費として認められるのは、業務に直接かかった費用の精算が基本です。交通費、出張費、会議費といった「使った分だけ戻ってくる」実費精算が中心で、個人の生活コストを会社の経費にするルートは通常ありません。
一方、社長(役員)は「会社が役員のために支払う」という形が取れます。役員の生活コストの一部を合法的に法人経費として計上できる仕組みが、税法上に用意されているのです。この「構造の違い」こそが、5倍もの差を生む根本的な理由です。
社長だけが使える経費12種類
実際に活用できる経費の種類を挙げると、ざっと12種類以上あります。
役員社宅(家賃の大部分を法人負担)、出張日当(旅費規程で設定した非課税の実費弁償)、社用車(法人名義の車両・燃料費・駐車場)、生命保険の損金算入、役員退職金、接待交際費(中小法人は年800万円まで全額損金)、役員報酬の最適化による所得分散、書籍・セミナー費、健康診断・人間ドック、在宅勤務関連費の按分、家族への役員報酬・専従者給与、慶弔費・福利厚生費——これだけあります。
もちろん「何でもあり」ではなく、それぞれに税法上の要件があります。ただ、要件を押さえた上で活用できる範囲は、社員とは比べものになりません。
最もインパクトが大きい「役員社宅」の実態
中でも節税効果が大きいのが、役員社宅です。
仕組みはシンプルで、会社が物件を借り上げて役員に貸し出します。役員は「賃貸料相当額」を会社に支払う必要がありますが、この金額は国税庁の通達で定められた計算式(専有面積や固定資産税評価額をベースにした算定)によって決まります。これが市場家賃よりかなり低く算定されることが多く、差額が実質的な法人負担になります。
仮に家賃が月10万円(年120万円)の物件で、役員の自己負担が月1〜2万円で済むケースでは、年間100万円超が法人経費になります。実効税率23%(中小法人・所得800万円以下の法人税率の目安)で換算すると、年23万円以上の節税効果です。5年積み重なれば115万円を超える計算になります。
「だいたいこれくらい」では必ず否認される
ただし、役員社宅の家賃を社長が独断で「これくらいでいいだろう」と決めてしまうのは厳禁です。通達に基づく計算式を無視して設定すると、税務調査で「役員給与の現物支給」と認定され、全額が役員報酬として課税されます。節税どころか追徴課税のリスクになります。
出張日当も、旅費規程の整備なしに「とりあえず払っていた」では通りません。社用車も業務使用の実態がなければ否認対象です。節税は「形式を作るだけ」では機能しません。実態と書類が揃ってはじめて認められる、というのが税務の基本です。
今期中に一度、経費の棚卸しを
社長として使えるはずの経費を、どれだけ活用できているか、一度棚卸しをしてみてください。
役員社宅は導入していますか?旅費規程はありますか?家族への役員報酬は適正に設定されていますか?
一つひとつは地味に見えても、複数を組み合わせると年間の節税効果は数十万円から数百万円になることも珍しくありません。まだ整備できていない項目があれば、今期中に顧問税理士と一度確認しておくことをおすすめします。「来期から」と先延ばしにするほど、取り逃がした節税額が積み重なっていきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。