先日、精密部品メーカーを経営する60代の社長から相談を受けました。「息子が40歳になって、そろそろ引退を考えているんですが、税理士に株価を計算してもらったら5億を超えていて……正直、どこから手を付ければいいかわからない」というのです。
会社の業績が良い、それは経営者として誇らしいことのはずです。ところが、その業績の良さが株価を押し上げ、億単位の相続税・贈与税として後継者の肩にのしかかる——これが多くのオーナー社長が直面する、皮肉な現実です。
この問題を正面から解決できる制度が、事業承継税制の「特例措置」です。うまく活用すれば、株式承継にかかる税負担を実質ゼロにできる可能性があります。そして特例措置を使った贈与・相続の実行には期限があります。2027年12月31日です。
株価5億円の会社、相続税はいくらになるか
相続税の最高税率は55%です。仮に5億円の株式を相続すると、各種控除を差し引いても2億円前後の税が生じるケースがあります。
これは現金で払わなければなりません。会社の資産を使うわけにはいきませんから、後継者が個人で資金を用意するか、自社株を売却して捻出するかしかありません。後継者が自社株を売れる相手は限られていますし、銀行借入で賄えばそのまま個人の多額の借金になります。
業績が良い会社ほど、後継者が承継時に経済的に追い詰められる——この構造こそが、日本の事業承継を難しくしている本質です。
「猶予100%」と「猶予3分の2」、差は億単位
事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2種類があります。
一般措置は、非上場株式の相続税・贈与税のうち最大3分の2を猶予します。つまり残りの3分の1は払わなければなりません。株価5億円なら、単純計算で1億円超の税負担が残ります。
一方、2018年に創設された特例措置は、猶予率が最大100%です。承継する全株式の評価額が丸ごと猶予されるため、承継時の税負担が実質ゼロになりえます。株価が高いほど、両者の差は億単位で開きます。
さらに特例措置では、猶予された税が「免除」になる可能性もあります。後継者が一定期間事業を継続し、次の代への再承継など所定の要件を満たすと、猶予税額が消えます。つまり、最終的に「払わなくていい」状態になりえるのです。
2027年12月末という期限の重さ
特例措置を使った贈与・相続の実行期限は、2027年12月31日です。
この日を過ぎると、特例措置の新たな適用はできなくなります。残るのは一般措置のみ——猶予は最大3分の2に戻ります。株価が5億円なら、その差額は1億円超です。
「まだ2年ある」と感じるかもしれませんが、株価算定から計画策定、申請手続き、実際の株式移転まで、準備には最低でも半年から1年かかります。2026年後半にようやく動き始めた案件が間に合わないリスクは、現実のものとして出てきています。
猶予を受けている間に注意すること
猶予は無条件で続くものではありません。一定の要件を満たし続けなければ、猶予が取り消され、利子税ごと一括納付を求められます。
主な継続要件としては、後継者が代表者であり続けること、資産管理会社に該当しないことなどが挙げられます。特例措置では雇用維持要件も弾力化されていますが、毎年の報告書提出など管理面の手間も生じます。承継後も専門家と継続的に関わる体制を整えておくことが不可欠です。
今すぐ「自社の株価確認」から始めてほしい
「うちはまだ先の話」と思っている社長に、一つだけお願いがあります。顧問税理士に「今の株価、試算してもらえますか」と聞いてみてください。
その数字を見てから判断しても遅くはありません。ただ、2027年末から逆算すると、本格的な準備を始めるタイムリミットは着実に近づいています。業績が伸びるほど株価も上がり、放置のコストは膨らむ一方です。
特例措置の適用要件や手続きの詳細は認定支援機関や税理士への確認が必要ですが、まず「自社の株価を知る」ことが最初の一歩です。今期中に一度、事業承継の税務シミュレーションを依頼しておくことを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。