「先生、うちの役員報酬、去年から変えていないんですが、問題ないですよね?」

こんな質問を、今年に入って何人かの社長からいただきました。答えは「問題ある可能性があります」です。耳の痛い話ですが、今のうちに知っておいて損はありません。

2026年から、給与所得控除と基礎控除の改正が本格的に動き出しています。この改正によって、役員報酬の「税負担が最も軽くなるゾーン」が静かに変わりました。何も見直していない社長は、年間で最大50万円ほど余計に払い続けているケースが出てきています。

役員報酬は「年に一度しか動かせない」

まず大前提として、役員報酬は事業年度開始から3ヶ月以内に決めたら、原則としてその期中は変更できません。毎月定額でなければ損金に算入できない「定期同額給与」のルールがあるからです。

改定のタイミングを逃すと、1年間ずっとその金額のまま走り続けることになります。2026年の改正を知らずに役員報酬を据え置いたままにした社長は、今期いっぱい損し続ける可能性があるわけです。だからこそ、次の定時株主総会のタイミングが非常に重要になります。

2026年改正で「最適ゾーン」がズレた理由

今回の改正のポイントは大きく2つです。

まず、基礎控除が10万円引き上げられました。これまで48万円だったものが58万円になっています(合計所得が一定額を超えると段階的に縮小します)。これ単体では税負担が下がる方向に見えますが、話はそこで終わりません。

給与所得控除の計算も連動して変わっています。基礎控除の引き上げに合わせた調整が入った結果、「手取りが最大化する報酬額の帯」がズレているのです。

年収800万円台を境にした前後で有利・不利の逆転が起きやすくなっています。以前は「役員報酬は1,000万円前後に設定するのが定石」とされていたケースも、今の税制では見直しが必要な場合があります。

社会保険料まで含めると、差はさらに広がる

所得税だけ見ていると判断を誤ります。役員報酬が高くなるほど、社会保険料(健康保険・厚生年金の本人負担分)も連動して増えていきます。

標準報酬月額の等級ごとに保険料が段階的に上がる仕組みになっているため、「ちょうど境界を少し超えた金額」に設定してしまうと、税金+保険料の合計が一気に跳ね上がることがあります。年収で50万円の差というのは大げさな数字ではなく、所得税・住民税・社会保険料の三重の変化が積み重なった結果です。

「不相当に高額」判定というもう一つのリスク

見落としがちなリスクがもう一つあります。役員給与が「不相当に高額」と税務署に判断された場合、その超過部分が損金に算入できなくなります。

判断基準は「同業他社・同規模の企業と比べて著しく高いかどうか」です。業績が好調だからと大幅に引き上げると、税務調査で指摘を受けるリスクが上がります。適切な金額の根拠として、株主総会の議事録や取締役会の記録を整備しておくことも、こうした観点から大切です。

報酬額の決定プロセスを文書で残しておくだけで、税務調査のリスクは相応に下がります。金額だけでなく「なぜその金額にしたか」の記録が守りになります。

次の改定タイミングまでにやっておくこと

役員報酬の見直し時期が近づいているなら、少なくとも以下の点を顧問税理士と確認してください。

  • 現在の役員報酬が2026年改正後の最適ゾーンに入っているか
  • 社会保険料の等級境界を意識した設定になっているか
  • 報酬決定の議事録・根拠資料が揃っているか

これだけ整理しておけば、次の改定タイミングに具体的な数字の話がすぐできます。「今の金額で問題ないよね」という感覚での据え置きが、一番もったいないパターンです。改正後の税制で最適なゾーンを計算し直すだけで、手取りに数十万円の差が出ることを忘れないでください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。