先日、顧問先の社長からこんな相談がありました。「そろそろ引退も考えているんだけど、退職金ってどれくらい受け取れるものなんだろう?」——創業20年、年商3億円の製造業の社長でした。
詳しく試算してみると、設計の仕方次第で手取りが3,000万円以上変わることがわかりました。同じ在任期間でも、「どう準備していたか」で受け取れる金額が大きく変わる。これが役員退職金の世界です。
よく見落とされている設計ポイントを3つ、重要度の高い順にお伝えします。
3位 「20年の壁」を超えてから退任する
退職金には「退職所得控除」という、サラリーマンには到底真似できない有利な控除があります。在任期間に応じて退職金から差し引ける金額で、課税対象を大幅に圧縮できる仕組みです。
ここで押さえてほしいのが、在任20年を境に計算ルールが変わるという点。20年以下の期間は1年あたり40万円の控除ですが、20年を超えた部分は1年あたり70万円に跳ね上がります。
在任30年なら控除額は1,500万円。一方、あと1年待てば20年を超えられるのに「もう十分」と19年で退任すると760万円。この1年の差だけで740万円も違ってきます。
「早く子どもに会社を渡したい」という気持ちはよくわかります。ただ、節税の観点からは20年を超えてから退任するのが鉄則。事業承継のタイミングを逆算して設計しておくことが大切です。
2位 最終報酬月額を「退職前から」引き上げておく
役員退職金の計算式は、一般的にこう表されます。
最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率
最終的な報酬月額が、退職金全体の「掛け算の土台」になります。ここが低いままだと、勤続年数がどれだけ長くても退職金は伸びません。
ところが多くの社長が、「退職直前に報酬を上げると税務署に目をつけられるのでは」と心配して、手をつけないままにしています。
正解は、退任の3〜5年前から段階的に引き上げておくこと。業績の伸長や役割の拡大に合わせて合理的な根拠を持って引き上げていくのは、正当な経営判断です。急激な引き上げは確かに問題になりやすいですが、計画的な設計はまったく別の話です。
「いざ退任」という段階で慌てても、もう取り返しがつきません。50代のうちから顧問税理士と一緒に設計を始めておくのがおすすめです。
1位 功績倍率の「根拠」を文書として残しておく
これが最も見落とされがちで、かつ最も重要なポイントです。
功績倍率とは、在任中の社長の貢献度を数値化したもの。代表取締役なら2〜3倍が税務調査で問題になりにくい目安とされています。ただし、法律で「3倍まで」と上限が決まっているわけではありません。会社の規模・業種・業績によっては、それ以上が認められるケースもあります。
問題になるのは、倍率の根拠が何もないときです。
税務署に「なぜ3倍なのですか?」と問われたとき、「慣習的にそうしました」では即アウトになりかねません。一方、以下のような資料が揃っていると大きく違います。
- 役員退職慰労金規程(社内規程として制定・議事録あり)
- 同業他社の退職金水準との比較資料
- 在任中の業績推移と会社への貢献を示すデータ
- 株主総会・取締役会の議事録
「ちゃんと設計した退職金です」と証明できる状態にしておくこと——これが税務否認リスクを最も効果的に下げる方法です。功績倍率を決める前に、必ず税理士と一緒に根拠を組み立てておきましょう。
退任まで5年以上あるなら、まだ間に合う
退職金の設計は、退任直前に慌てて始めても取り返しがつかないことが多いものです。5年、10年前から少しずつ整えておくものだと思ってください。
今日の話をまとめると、設計で変わる3つのポイントはこうなります。
- 勤続年数を20年超にしてから退任する(退職所得控除の最大化)
- 最終報酬月額を段階的に引き上げる(計算の土台を底上げ)
- 功績倍率の根拠を文書で残す(税務否認リスクの低減)
どれか一つでも欠けると、受け取れるはずの退職金が何百万・何千万と消えてしまいます。「自分の退職金、ちゃんと設計できているだろうか」と少しでも気になった方は、早めに顧問税理士に声をかけてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。