先日、ある社長からこんな相談を受けました。「決算が近づいて税理士に言われて初めて気づいたんですが、交際費ってもっと使えたんですね」——その表情には、少し悔しそうな色がにじんでいました。

交際費の節税枠については、多くの社長が「何となく知っている」ものです。でも実際に意識して活用している方は、想像以上に少ない。今回はそのギャップについて話したいと思います。

800万円、全額損金になります

資本金1億円以下の中小企業であれば、交際費は年間800万円まで全額損金算入できます。

「損金算入」とは、法人税の計算ベースとなる所得から引けるということ。800万円をフルに使い切ると、法人税の実効税率(約33%)で計算して約264万円の税負担が減ります。

1年で264万円。これを「使えているか、使えていないか」——それだけで決算の結果がまったく変わってきます。10年続ければ2,640万円の差です。知っているつもりで放置しているのは、少しもったいない話です。

なぜ「知っているのに使い切れない」のか

「そんなに接待しないから」という声をよく聞きます。確かに毎月66万円(年800万円÷12)の飲食をこなすのは、業種や規模によってはなかなか難しい。

ただ、交際費として認められるのは飲食代だけではありません。

取引先への中元・歳暮の贈答品、ゴルフのプレー代と参加費、観劇やスポーツ観戦への招待、慶弔の祝い金——要件を満たせばこれらも交際費として計上できます。「そう言われてみれば、ちゃんと集めたらそれなりになるかも」と気づく社長も多い。

まずは「今期いくら使ったか」の数字を顧問税理士に確認することから始めてみてください。残枠が見えると、打てる手が変わります。

2024年4月に使いやすくなった新ルール

もう一つ、見落としている方が多い変更があります。2024年4月から、1人あたり1万円以下の飲食費は、交際費の800万円枠とは別に損金算入できるようになりました。

それまでは5,000円以下が対象でしたが、倍の1万円に引き上げられています。

これが何を意味するかというと、日常の少人数での食事や軽い打ち合わせの費用を、800万円の枠を消費せずに処理できるということです。大型の接待や年末の贈答品のために枠を温存しつつ、日々の飲食費は別ルートで経費化する——この使い分けができると、節税の余地はさらに広がります。

計上するときに気をつけること

ただし、何でも交際費になるわけではありません。税務上、「誰を、何の目的で接待したか」が明確でないと、税務調査で問題になることがあります。

実務でとくに気をつけてほしいのは、領収書へのメモです。接待した相手の会社名・氏名、接待の目的(新規開拓、継続取引の謝礼など)、参加人数——この3点をその場で書いておくだけで、証拠力がぐっと上がります。

264万円の節税を守るためのひと手間と考えれば、決して面倒ではないはずです。スマホの写真に残してもいい。とにかく「誰と、なんで」が後から分かる状態にしておくことが大切です。

期末3ヶ月前が動き時

交際費を使い切れていない社長に共通するのは、残枠を把握していないことです。800万円のうち期末3ヶ月前の時点でまだ500万円残っているなら、計画的に使う余地は十分あります。

取引先への手土産を少し充実させる、懸案だった接待を前倒しで実行する、お世話になった方への年末の贈り物を少し奮発する——小さな積み重ねで、枠を活用することはできます。

「今期の交際費の使用状況と残枠を教えてください」——顧問税理士にこの一言を投げかけるだけで、動ける選択肢が見えてきます。800万円という枠は、使い切って初めて意味があります。知っているだけで終わらせるのは、やはりもったいない話です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。