「毎月25万円の家賃を、ずっと自分の財布から払い続けています」
ある製造業の社長から、そう話しかけられたときのことです。少し言葉を選びながら、「会社の経費にする方法が実はあるんですよ」と伝えると、目を丸くして「え、本当に?」と身を乗り出してきました。
役員社宅という制度があります。これを使えば、社長が住む自宅の家賃のうち大部分を、合法的に会社の経費にすることができます。制度として認められている節税手法のひとつで、正しく運用すれば税務調査でも問題になりません。
仕組みはシンプル、「会社が物件を借りる」だけ
通常、自宅を借りる場合は社長個人が家主と賃貸契約を結びます。この場合、家賃は完全に個人の支出になり、会社の経費にはなりません。
役員社宅では、この契約の主体が変わります。会社が家主と直接賃貸契約を結び、社長はその物件を社宅として使用する形にします。社長は会社に対して「自己負担分」だけを支払い、残りは会社が負担します。その差額が、丸ごと会社の経費になるわけです。
たとえば月25万円の家賃なら、社長の自己負担が月4〜5万円程度になるケースもあります。差額の20万円が会社の経費に。年間換算で240万円超の経費増です。
年間60万円超の節税効果になる理由
中小企業の法人実効税率はおおよそ30%前後です。
先ほどの例で試算してみましょう。年間240万円の経費が増えると、その分だけ法人の利益が圧縮されます。税率30%で計算すれば、約72万円の節税効果になります。これは単発ではなく、毎年繰り返せる節税です。
10年間続ければ、累計で720万円超の差になります。「経費が増える」というのは「会社の利益が減る」ということで、利益が減れば税金も減る。当たり前の話ですが、この仕組みを使っていない会社はまだ多いのが実情です。
自己負担額はどうやって決まるのか
ここが最も重要なポイントです。役員社宅の自己負担額(賃貸料相当額と呼びます)は、「固定資産税評価額をもとに計算する」と国税庁の通達で定められています。
物件の床面積や固定資産税評価額から算出される計算式があり、この金額を下回る自己負担にしてしまうと、差額が「役員報酬」とみなされて課税の対象になります。
つまり、「家賃の何割を経費にできるか」は物件によって変わります。都市部の高層マンションと郊外の一軒家では固定資産税評価額が異なり、経費化できる割合も変わってきます。一般的に70〜90%が経費になると言われますが、あくまで目安です。物件ごとに正確な計算が必要です。
豪華すぎる物件には注意が必要
役員社宅にはひとつ落とし穴があります。床面積が240平米を超えるような「豪華社宅」と判定されると、賃貸料相当額の計算方法がまったく変わります。経費化できる割合が大きく下がるため、高額物件を検討している場合は事前確認が必須です。
また、すでに個人名義で契約している物件を途中から社宅に切り替えるケースでは、過去の申告への影響や切り替えのタイミングに気をつける必要があります。役員報酬の変更を伴う場合は、事業年度開始から3ヶ月以内というルールも絡んできます。
自己負担額の計算を「だいたいこのくらい」で済ませてしまうと、後から修正が必要になる場合があります。税理士への相談は必須です。
今すぐできる第一歩
導入の流れはシンプルです。まず税理士に「今住んでいる物件で賃貸料相当額を計算してほしい」と伝えるだけです。その数字が出れば、今期から動けるかどうかがわかります。
自宅の家賃を毎月個人で払い続けているなら、一度試算してみることをおすすめします。年間数十万円単位の節税効果が見込める場合、動かない理由はほとんどありません。役員社宅は、社長の手取りを大きく変えずに会社の税負担を下げることができる、数少ない合法的な節税手法のひとつです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。