先日、ある社長からこんな相談を受けました。
「決算が近いんで、ちょっと報酬を上げようと思っているんですが、今からでも大丈夫ですよね?」
残念ながら、大丈夫ではありませんでした。
役員報酬には「原則として事業年度の途中では変えられない」というルールがあります。それを知らずに変更した結果、増額分が丸ごと損金に算入できなくなってしまうケース、本当によくあります。今日は、私が実際に見てきた「役員報酬のやりがちなミス」をトップ3でお伝えします。当てはまるものがないか、ぜひ確認してみてください。
第3位:期中に役員報酬を変えてしまう
税務上、役員報酬が損金として認められるには「定期同額給与」の要件を満たす必要があります。
簡単に言うと、「毎月同額を、事業年度開始から3か月以内に改定すること」です。この要件から外れると、変更した金額の分が全額損金不算入になり、法人税がそのまま増えてしまいます。
「業績が上がったから少し増やしたい」「資金繰りが苦しいので今月だけ減らしたい」という気持ちはよくわかります。でも、それをやってしまうと税務上はペナルティになります。改定できるタイミングは原則、事業年度はじめの3か月以内だけ。このウィンドウをカレンダーに登録しておくだけで、このミスはほぼ防げます。
第2位:報酬を低く設定しすぎている
「会社にお金を残したい」という考えから、役員報酬をあえて低めにしている社長は少なくありません。ところが、これが裏目に出ることがあります。
法人に利益を積み上げると、実効税率は約34%で課税されます。一方、個人で受け取る給与は、金額次第では所得税・住民税の合計を抑えられるケースがあります。法人と個人に分散して受け取ることで、累進課税の高い税率ゾーンを回避できる場合もあるのです。
「会社に残す=節税になる」と思い込んでいる社長が多いのですが、実際には逆になることもあります。もちろん社会保険料とのバランスも考慮が必要ですし、最適な金額は会社の利益水準や家族構成によって異なります。ただ、「低く設定しておけば安心」という思い込みは、一度疑ってみる価値があります。
第1位:退職金の設計を後回しにしている
これが最も「後で後悔するミス」です。
役員報酬と退職金は、セットで設計するのが鉄則です。なぜかというと、退職金の適正額は在職中の役員報酬をベースに算出される(功績倍率方式)からです。報酬が低ければ、支払える退職金の適正額も低くなります。
退職所得には非常に優遇された税制があります。退職所得控除(勤続20年超なら1年あたり70万円)を引いた上、さらに2分の1課税という仕組みがあるため、同じ金額を給与でもらうよりはるかに手取りが増えます。ところが、この恩恵を最大限に受けるには、在職中の役員報酬の設定が重要になってきます。
報酬と退職金をバラバラに決めてしまうと、退職所得控除を使いきれなかったり、逆に退職金が高すぎて税務調査で「不相当に高い」と指摘されるリスクも出てきます。「退職金は退職するときに考えよう」では遅く、年間数百万円単位で手取りが変わることも珍しくありません。
今期の改定タイミングを逃さないために
3つのミスを見てきましたが、どれも「知っていれば防げたこと」ばかりです。
役員報酬を変えられるタイミングは年に一度しかありません。その限られた機会に、法人と個人の税負担バランス、そして将来の退職金設計まで視野に入れて検討できるかどうかが、長期的な手取りの差を生みます。
まだ退職金の設計に手をつけていないなら、次の役員報酬改定のタイミングで、退職金設計も一緒に相談してみることをおすすめします。一度しっかり設計しておけば、あとは年に一度確認するだけで済みます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。